では、井上コーチの会見での「怪我をさせる目的では言っていない」という発言に嘘はないということなのだろうか。
「『潰す』という言葉に注目がいきがちですが、私は最大のポイントは井上コーチの発言とされている、『相手のクオーターバックが秋の試合に出られなかったらこっちの得だろう』という言葉のほうにあると考えています。『潰せ』だけであれば、怪我をさせろとは捉えなかったでしょうが、5月の試合で『秋の試合に出られなかったら』と言われれば、重度の怪我を負わせることを命じられたと選手側が感じたとしてもおかしくはないでしょう。
とはいえ、選手にとって監督やコーチの指示は絶対的なものではありますが、極論を言うなら『誰かを殺してこい』と命令されて本当に殺人を犯すのかという問題でもあります。あの悪質な反則を起こしてしまったということは、やはり正常な判断ができなくなるほど、精神的に追い込まれていたということの表れなのでしょう」(同)
同様の事件が二度と起こらないように根本的な解決を図るには、今後、大学アメフト界はどうすべきなのだろうか。
「業界内の土壌自体を変えないといけないでしょう。まず、連盟側が表に出てきてないことから、連盟よりも日大が力を持っているようにも見えるため、大学アメフト界の構造自体がおかしくなってしまっているように感じます。
また、宮川選手の会見を聞くかぎり、井上コーチがある程度独断で指示したというようにも思えますが、もしその通りなら大学日本一になるチームのコーチが、世間一般の常識の中では考えられないような指導をしてしまう土壌があったということです。そういった土壌があるならば、内田前監督と井上コーチがチームから離れて新たな指導者が来ても、同じような指示を出す可能性もゼロとは言えません。ほかの大学でも同じようなことが起こる可能性もあります。
そのような異常な構造や土壌を正さない限り、また同じようなことが起きてしまう可能性があるということです。そういう意味で、きちんと正常な大学アメフト界に戻すためにも、日大のアメフト部はどんな環境だったのか、日大の中で何が起こっていたのか、それらを明確にしないことには次に進めないでしょう」(河口氏)
日大側が包み隠さず内部事情を明らかにすることが、大学アメフト界・正常化への第一歩となるということだ。
(取材・文=A4studio)