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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

『スター・ウォーズ』や『インディー・ジョーンズ』の音楽が観客の心を震えさせる秘密

文=篠崎靖男/指揮者

 皆様も、童謡『赤とんぼ』を聴くと、夕焼け空に赤とんぼが飛んでいく情景が、あたかも見えているように頭に浮かぶかと思います。これも一例ではありますが、スピルバークとジョン・ウィリアムズの天才2人は視覚と聴覚の融合を追求し続け、相互作用によって引き起こされる疑似体験まで計算し、数々の名作をつくり上げてきたのです。

ジョン・ウィリアムズの映画音楽では超高額ギャラ

 ところで、ジョン・ウィリアムズは指揮者でもあります。有名なボストン・ポップス・オーケストラの指揮者を長年勤めていましたが、ロサンゼルス・フィルハーモックの夏のハリウッドボウル音楽祭では、86歳になった今でも毎年、自分の映画音楽を指揮することが恒例となっています。2万人以上入る野外会場が満席になりますが、やはり彼が指揮をする『スター・ウォーズ』『インディー・ジョーンズ』『ハリー・ポッター』の演奏は最高です。

 ちなみに、彼の映画音楽は、すべて生オーケストラで演奏されています。今の時代、映画産業も予算削減のため、お金がかかるオーケストラよりも、シンセサイザーを使うことが多いのですが、彼は頑なまでにオーケストラでつくり上げます。生身の人間が気持ちを込めた演奏が、同じく生身の人間の心を揺り動かすことを理解しているのです。たとえば、『スター・ウォーズ』の有名なテーマを思い出してください。トランペット奏者が力強く演奏しますが、シンセサイザーだと音量的に大きな音は出せますが、“力強い”音は出せないのです。感動には、人間同士のコミュニケーションによる共感が深く関わっています。

 さて、ジョン・ウィリアムズの映画音楽録音セッションともなると、オーケストラは最高級のメンバーによって特別編成されます。高いギャラで、優秀な奏者を一人ひとり雇っていくのです。映画撮影のメッカであるハリウッドには、優秀な専門のミュージシャンがたくさんいますが、もちろん世界的オーケストラのロサンゼルス・フィルハーモックの楽員であっても、高いギャラにつられて大喜びでバイト稼ぎをしにいきます。収録が伸びて深夜12時を越えると、怒り出すどころか“ハッピータイム”と言って大喜びします。それは時給が倍になるからです。そんな奏者のひとりに、驚く話をされたことがあります。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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