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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(9月第2週)

「イエスといったじゃないか!?」逆ギレ恫喝営業テクニック

post_692.jpg(左)「週刊東洋経済 9/15号」 (右)「週刊ダイヤモンド 9/15号」
●スズキ工場、インド人労働者暴動の真実

 「週刊東洋経済 9/15号」の大特集は『アジアで失敗しない「人の活用法」』。尖閣諸島の領有権を主張する、中国市民の反日デモ、韓国との竹島問題の深刻化。日本に対するアジアのまなざしは厳しさを増しているように見える。また、今年7月末には、中国江蘇省の王子製紙工場の排水パイプライン敷設計画に反対する数千人規模のデモも発生した。デモは日々の生活に不満を持っている人がそのはけ口として行なっているものの、こういう時代だからこそ、日本企業の経営者や幹部は現地の人たちの力を最大限引き出すようなマネジメント力やコミュニケーション力を手に入れなければならない。

 また、中国の人件費が高騰したために、欧米や韓国、そして、アジア各国の国営企業との人材の奪い合いが表面化している。その意味でも日本人は自分たちのマネジメント力をもっと引き上げる必要があるのだ。そのために必要なこれまでの成功事例、失敗事例をまとめた特集だ。

 ・インド人は愛国心は強いが、愛社精神は乏しい。
 ・中国人はシビアな職業観を持つが、家族ぐるみの付き合いを大事にする。
 ・ベトナム人は自分や家族のために働く。「知識を人と共有せず、自分だけで抱え込んでしまう」
 ・インドネシア人は、周りから阻害されたくないという思いが強い。
 ・タイ人はほほえみの国といわれるが、うれしいときだけでなく当惑しているときや、文句を言われたときにも笑う。
 ・フィリピン人は、本当はノーといいたいのに、はっきりと断らない人も多い。
 ・仏教式志向で日本人が親しみやすいのはミャンマー人

……といったアドバイスが並ぶ。

 とくに興味深い記事は、今夏のインド子会社「マルチ・スズキ」社マネサール工場の暴動について、その原因を詳しく取り上げた記事だ。

 7月18日夕方、首都ニューデリーに近い、インド北部ハリヤナ州にあるスズキの現地子会社「マルチ・スズキ」社マネサール工場の労働者が暴徒化。一部が事務所に乱入してスタッフに暴行するなどし、破壊や放火に及んだ。この暴動で同社人事担当のインド人マネージャー1人が死亡。日本人派遣社員を含む約100人が負傷する事態となった。

 マネサール工場は2006年に完成したばかりの最新鋭工場で、生産能力は年間約60万台。同工場には3300人の工員が勤務し、スイフト、スイフト・デザイア、SX4などの人気機種を生産していた。同工場の操業停止で、マルチは200億円を超える損失を出し、人気車スイフトなどの受注残も約12万台に膨れ上がった。

 地元警察は、8月上旬までに事件に関与したとされるすべての工員や労働組合幹部ら150人以上を逮捕。事件発生から1カ月を経過し生産は再開されたが全容解明には至っていない。

 インドは社会主義的な色合いの濃い労働関連諸法によって、労働者の権利はかなり手厚く守られており、待遇改善や賃金改定をめぐる交渉はこれまで平和的に行われていただけに、多くの日本企業に衝撃が走った。

 この事件の背景には、「管理職が労働者に対してカースト差別発言を行なったのではないか」という説や「極左武装組織が関与している」説があったが、現在では、「左翼政党の影響下にある労組活動家が労働者として職場に入り込み、『扇動』を図った」説が濃厚だ。というのも、ここ数年インドでは賃金引上げなどの待遇改善や新組合結成への承認を求めた労働争議が頻発。外資系企業にとっては「外からやってくる労組の活動家を食い止めるのに苦労している」と語るほどだからだ。

 マネサール工場にも、臨時雇用の「契約工」が常用化していたという問題があった。事件当時約3300人いた従業員の半数強がいわゆるこの契約工で、正規雇用の工員と比べて、賃金はもちろん社会保障などの待遇に大きな格差があったといわれているのだ。

 実は、インドでは労働法が労働者に手厚く、「平均で100人以上の従業員を雇用する事業所が解雇・閉鎖を行なう場合には事前に州政府の許可が必要」と定められており、いったん雇用した従業員を解雇するのはきわめて困難であり、各社は正規工員の雇用を手控え、臨時雇いで調整するという手法を行なっていたのだ。労働者にとって利益となるべき法制も企業の運用しだいで、労働者の利益を損なうようになってしまう。日本での非正規労働の増加をもほうふつとさせる背景があったのだ。

 さらに、産業資材の調達価格が高騰、各社は軒並みコストダウンが至上命令となっており、現場労働者らの不満につながっていったと見られている。

 暴動を受けて、マルチは組み立てラインなど直接の生産部門で働く契約工をすべて正規工員に置きかえると発表、社宅なども建設し労働者の待遇改善を図ることを約束したという。

「アジアで失敗しない『人の活用法』」という特集だが、まずは非正規雇用のあふれる日本国内でも、こうした活用法が十分に生かされていないといえるのではないだろうか。

●ブラック系企業が使う心理テクニックとは

「週刊ダイヤモンド 9/15号」の特集は『心理入門トップ営業マンはなぜ質問を3回繰り返すのか』だ。優秀なビジネスマンを観察すると、本人は意識せずとも「心理テクニック」に当てはまる会話や行動が目白押しだ。こうした心理の基本を学べば、彼らが抜きん出ている本当の理由がわかる……という特集だ。テレビ番組でおなじみのメンタリストDaiGoにメンタリズムのテクニックを解説させ(『Coverinterview 大人気メンタリストはなぜ心が操れるのか』)、神が降りてくる「拝み屋」に13年間マインドコントロールされ、5億円も貢いだ歌手・辺見マリがマインドコントロールの裏側を解説する(『裏Part1悪用編 歌手・辺見マリはなぜ5億円を奪われたのか』)といったバラエティに富んだ特集だ。

 興味深かったのは『Part2 消費心理編 高級シャンプーはなぜ平日によく売れるのか』だ。あるドラッグストアでは日によってシャンプーの売れ筋が変わる。平日は高級ブランドがよく売れるが、週末は一転、安いタイプのほうが良く売れる。その理由は販売時データを集計するPOSからはわからず謎だった。この謎を解明したのが「行動観察」という手法だ。行動観察とは、人の動きを徹底的に観察し、気付いたことを科学的に分析し、問題解決策を見出す手法だ。この行動観察で分かったことは、平日、主婦は1人で来店し、高額でも好みに合うシャンプーを買っていた。一方で、週末は家族で来店するために倹約志向が働き、安いシャンプーを選ぶという傾向があったのだ。

 つまり、主婦は平日は高額志向で、週末は倹約志向だということがわかり、これに応じた販売展開をしていけばいいということになるのだ。

 ただし、実用的に使えるかどうか疑わしい心理テクニックを紹介した記事も多い。今回の特集の副題の答えにもなっている記事(『Part1基本編 トップ営業マンはなぜ質問を3回繰り返すのか』)では、お客に購入を決意させる最終段階の場面では、「はい」と答えやすい質問を3回くらい積み重ねて相手の心理的抵抗を取り除いてから、購入意思を尋ねる本命の質問を繰り出せば、「はい」と答えてもらいやすくなるという「イエスセット」という基本的なテクニックを紹介している。

「イエスセット」とはたとえば、こんなケースだ。

 営業マン「年金不安もあって将来は不安ではありませんか?」……「イエス」
 営業マン「不動産投資をして年金代わりになったらいいと思いませんか?」  ……「イエス」
 営業マン「では、わが社の投資用ワンルームマンションを購入しませんか?」

 ……これで、「イエス」とはなかなか言わないだろうが、ダイヤモンドの今回の特集を実践するとこういう行動になってしまう。ありえないと思うかもしれないが、しかし、実際にこうした勧誘を私は受けたことがある。いわゆる不動産投資マンションの勧誘電話だ。

 どこかで交換した名刺や社員名簿などをもとに、職場に電話をかけてきて、不動産投資マンションの勧誘を行なう。「イエスセット」で「イエス」へと誘導するものの、最終的な勧誘の結果は当然ながら「ノー」。こちらが「ノー」と答えたとたん、電話の向こうの営業マンは、「さっき、イエスといったじゃないか!?」「こちらがあんたの将来を心配してやっているのに、何だ、その態度は!?」と逆ギレをはじめるのだ。営業マンは逆ギレをすることで、勧誘相手が気の弱いサラリーマンならば、アポを取り付け、コワモテ営業マンが直接会って、マンションの売買契約に印鑑を押させようという商法だ。彼らが職場に電話をかけてくるのは、職場だと勧誘を受けた側はおだやかにしか対応ができないからだ(私の場合は怒鳴りあってガチャ切りして終わりだった)。

 一時期、社会問題にもなったこのビジネスだが、こうしたブラック系企業の怪しいビジネスでさえ、「イエスセット」を実践しているのだ。ただし、「イエスセット」だけでは、最終的に「イエス」という答えは引き出せないために、逆ギレなどコワモテ勧誘を駆使せざるをえないといったことが分かる。

 つまり、「イエスセット」じたいの効果はあやしいのだ。「イエスセット」などを利用した勧誘は、テクニックを駆使しているというよりも、勧誘相手が気が弱いか、心に隙があるかどうかで成功かどうかが決まるといえそうだ。

 今回の特集記事を読んでも、実際のトップ営業マンは「イエスセットを使っている」とは発言していない。トップ営業マンの成功のコツは「ひたすら聞き手にまわる」「的確な質問をする」「時宜を得た連絡をする」「できることはその日のうちにやる」といったもので、顧客との間に信頼関係を構築することが成功のコツといっているだけだ。こうした成功のコツは一朝一夕にできるものではない。一方で、イエスセットなどの心理の基本テクニックで安直に営業を成功させようという姿勢はビジネス上、逆効果になりかねないので、注意が必要だ。

 簡単にできるが成功しない心理の基本テクニックと、実際にトップ営業マンが行なっている成功のコツを一面的に取り上げてしまっているために、特集の説得力が弱い……つくづく思うが、ダイヤモンドは取材力はあるものの、実際の紙面上での整理力(編集能力)が弱いのが難点だ。こうした能力もビジネスの世界では求められるはずなのだが。
(文=松井克明/CFP)

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『週刊 東洋経済 2012年 9/15号』 海外での足固めが寛容。 amazon_associate_logo.jpg
『週刊 ダイヤモンド 2012年 9/15号』 イ、イエス…(泣)。 amazon_associate_logo.jpg

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