コオロギ、世界的食料危機の救世主に…高い栄養価とイケる味、人間の残飯で飼育
食糧危機は深刻化の一途
現在の世界人口は73億人。人口増加は今後継続し、2040年には90億人に達するといわれている。1980年には45億人だったことを考えると、わずか60年で倍になる計算である。図1を見てもわかる通り、これから20年強で17億人増えるわけだから、人口8000万人のドイツ一国分の人口が毎年増え続ける計算である。
また、先進国では人口増加の割合は低く、むしろ日本のように人口が減少に転じたところもあるくらいで、人口が増えるエリアは、いわゆるアジアやアフリカを中心とする途上国である。つまり、比較的貧困地域において、今後急激に人口が増えるのである。
国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、現在の世界の飢餓人口は約8億人、毎日4万人が餓死しているという。2秒に1人のペースだ。今後の人口増加によって、食糧危機がさらに悪化することは目に見えている。
そんななか、イノベーションで食糧危機に立ち向かう動きがある。なんと、貧困地域でコオロギを養殖して食糧危機を解決するという考えだ。
タンパク質の重要性
人間が生きていくために必要な3大栄養素は、脂肪、タンパク質、炭水化物。とくにタンパク質は、筋肉や骨格を形成する大切な栄養素であるが、供給源として動物(肉、乳製品)や大豆など一部の植物に依存するため、その生産量を急激に増やすことは難しい。
たとえば、牛1頭を食料にできるまで育てるとすると、そのために、大量の飼料、大量の水、そして、数年という長い年月がかかる。
また、タンパク質を人工的につくることは困難で、現代においても、牧草などを食べてタンパク質をつくる動物に、その機能を依存しなければならない。飼育や栽培のために必要な資源や時間を考えると、短時間で劇的にその収穫量を増やすことは容易でない。
現状、そして今後予想される食糧危機を考え、もっと効率的にタンパク質をつくる方法が盛んに研究されているが、現在、高い注目を集めているのがコオロギである。
食料としてのコオロギのすごさ
なぜコオロギなのか? コオロギは、以下の4点において、優れた食材だという。
(1)栄養価の高さ
(2)飼育のしやすさ
(3)宗教的制約の少なさ
(4)味
まず栄養価について。コオロギ100グラム当たりに含まれるたんぱく質は、約21グラム。牛肉(20グラム前後)と比べて遜色ない。
また、飼育コストも家畜と比べてはるかに安い。たとえば、牛の体重を1キロ増やすためには、約10キロの飼料が必要となるが、コオロギであればそれが2キロで済む。必要な水も少ない。加えて、数年かけて成長する動物に比べ成長期間は短く、成虫するのに1カ月で十分だという。なお、飼料は人間が輩出した残飯で十分。
たとえばイスラム教徒は豚が食べられないなど、豚や牛だと宗教的な制約を受けることがあるが、昆虫に関してはそれがない。
そして何よりも、味がよい(と言われている)。「味」に関しては、証明する方法がないので、筆者自ら体を張って試してみたが、エビに似た食感と風味で、確かに悪くはない。見た目のグロテスクささえ乗り越えられれば、食するに値するといえよう。子供の頃に食べたイナゴの佃煮の衝撃に比べると、ハードルはかなり低い(もちろん人による)。
問題は世界各地でコオロギを供給する方法であるが、そこに対してフィンランドのエント・キューブ社(2014年設立)が、独自のコンテナで解決を試みている。彼らが開発した特性のコンテナを使えば、世界中どこでもコオロギの飼育に最適な環境を再現できるという。コンテナなので、そのまま船に積載すれば、世界各地に輸送できる。
つまり、条件はそろった。後は、展開あるのみ。一部ではコオロギスープや、コオロギバーガーなるものも出始めているというが、来るべき時代に備えて、先進的な企業が、コオロギメニューの研究に力を入れ始めている。
イナゴや蜂の子も、もともとは食糧に恵まれない時代の、貴重なタンパク源であったはず。先人の知恵と、現代の技術のコラボによるイノベーションが、世界の食糧危機を救うかもしれないと思うと、今後コオロギを見る目も変わるかもしれない。
(文=星野達也/ノーリツプレシジョン取締役副社長、ナインシグマ・ジャパン顧問)