職場の歓送迎会、お花見……酒好きにとっては心ときめく春の到来だ。しかし、血糖値の高さを気にしている人は、「ぐっと我慢」のシーンが増えるかもしれない。
肥満や血糖値が気になり、「ビールや日本酒を避け、焼酎などの蒸留酒を飲むようにしている」という人は多い。ご存じのとおり、醸造酒(ビールや日本酒など)は糖質が多く含まれているからだ。
たとえば、アルコール100gあたりに含まれる炭水化物量は、日本酒(本醸造)で4.5g、ビール(淡色)で3.1g、白ワインで2.0g。それに対して、焼酎、ウイスキー、ブランデーは、いずれもゼロである(文部科学省・五訂増補日本食品標準成分表より)。
では、健康のためにはビールや日本酒は控えて、蒸留酒を選ぶべきなのだろうか――。
実は、その疑問にひとつの答えが出ている。アメリカとヨーロッパで行われた大規模な疫学調査において、「飲酒者の酒の好みと2型糖尿病のリスクに関連性はない」という結果が出たのだ。
「ビールが7割」でも糖尿病になりやすさは一緒
発表したのは「Consortium on Health and Ageing Network of Cohorts in Europe and the United States」(CHANCES)呼ばれる、欧州18カ国と米国が共同で行っている疫学研究プロジェクト。論文は、『European journal of clinical nutrition』(オンライン版)に2月22日掲載された。
今回の研究は、CHANCESのデータベースから飲酒量を報告した6万2458人のデータを含む、欧州のコホート研究10件について分析したものだ。
フォローアップ期間中の2型糖尿病発症については、診断書または「診断された」という自己申告で確認した。
さらに、摂取したアルコール総量の70%以上がビール・ワイン・蒸留酒のいずれかである場合に「嗜好あり」と定義し、それぞれ酒類と糖尿病発生との関連性を調べた。
解析の結果、酒の嗜好が特にない人を1とした場合、糖尿病を発症するリスクは、ビールを嗜好する人で1.06、ワインで0.99、蒸留酒では1.19と、ほぼ差がなかった。
つまり、ビールやワイン、蒸留酒を好んで飲む人と、いろいろな酒類をまんべんなく飲む人を比べたら、糖尿病のリスクに違いがなかったわけだ。
適量のワインは血糖値を下げるという報告も
だが、注意したいのは、この研究は飲酒者の「酒類によって糖尿病になるリスク」を比較したもの。当然、どんな酒でも飲み過ぎれば糖尿病を発症するリスクは上がる。
アルコールのカロリーは、1gあたり7kcalと高い。ところが、アルコールのエネルギー自体に血糖値を上げる力はない。体内でブドウ糖にならないからだ。ただし、アルコールには肝臓内のグリコーゲンをブドウ糖へ分解する作用を促進する。どのような酒類でも、飲めば一時的に血糖値は上昇する。
しかし一方で、適量であればアルコールには翌朝の血糖値を下げる働きもあるといわれる。
実際に190人の2型糖尿病患者を2グループに分け、一方には毎晩適量のワインを、もう一方には毎晩ノンアルコール飲料を飲んでもらうと、朝の血糖値はワインを飲んだ群のほうが22 mg/dlも低かったという報告がある(健康な人の空腹時血糖値は80~125mg/dl)。
すでに医師の指導の下で糖質制限をしている人は除き、通常は飲み過ぎなければ、好みの酒を飲んでも糖尿病のリスクアップとの関連はないようだ。お酒は嗜好品、どうせなら、自分がいちばん美味しく感じるものを楽しみたい。
(文=ヘルスプレス編集部)