政治も、行政も、研究者も、患者さんたちを救う手立てを考えて欲しい
免疫チェックポイント抗体が効きやすい人/効きにくい人の、がん組織を取り巻く環境は、単純化すると下図のようになっている。がん組織のPD-L1が高い症例が効きやすいとされているが、そのような症例では、CD8リンパ球(細胞傷害性を持つリンパ球)が増えていることが多い。
すなわち、がん組織内にあらかじめがんを攻撃するリンパ球予備群の存在が重要だ。がんを守る免疫力を抑え込んでも、がんに対する攻撃力が備わっていなければ、当然ながら効果がない。
では、さらに免疫療法の効果を高めるにはどうすればいいのか。いろいろと手段はあるが、素直に考えれば、がんを攻撃するリンパ球を増やす方法が頭に浮かぶ。
しかし、それが高額であっては、患者さんに負担となって跳ね返ってくる。この観点では、ペプチドワクチン療法(オンコアンチゲンや、最近注目のネオアンチゲン)、あるいは、これらで樹状細胞を刺激する治療法が考えられる。
これがもっと検証され有効性が科学的に実証されれば、日本には大きな強みとなる。私が信じていることだけでは屁のツッパリにもならないだろうが、とにかく私は信じているし、それを実証していきたい。
嫌なもの、ゲテモノという視点で目を逸らしていても、エセ免疫療法クリニックはなくならないし、患者さんや家族を不幸にするだけだ。科学的な目を向ければ、国として取り組み評価していくことは当然の流れだと思う。
「可能性があるなら、それを科学的に評価していく」、それができないから、日本はこのようになったのだ。政治も、行政も、研究者も、現実に目を向けて、患者さんたちを救う手立てを考えてほしいと願っている。
(文=中村祐輔/シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長)
※『中村祐輔のシカゴ便り』より抜粋
中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)
シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月より現職。