大根の「辛み」に隠された意外な健康効果とは?おでんより“大根おろし”で食べるべき理由
「大根引き 大根で道を 教えけり」
江戸時代を代表する俳諧師、小林一茶が詠んだ句です。一茶は身近な情景をユニークな表現で詠みあげた句が特徴で、わかりやすく現代でも通じる句が多いため、教科書にも多数収載されています。
そのような句のひとつである冒頭の一句は、大根の収穫時期の農村で一茶が収穫をしている農民に道を尋ねたところ、大根を握った腕で方向を指し示し、「あっちだよ」と教えてくれた様子を表現しています。大根は11月の季語であり、日本食の代表的な食材のひとつでもあります。
食欲の秋には大根の消化促進作用が大活躍
大根は一年中スーパーの野菜コーナーに並んでいるので、大根に季節感を感じることはあまりないかと思いますが、11月の季語であることから予想される通り、旬は晩秋から初冬です。最近は辛い大根がめっきり少なくなってとても食べやすくなりましたが、筆者は居酒屋などでたまに辛い大根に出会うと、体の芯から力がみなぎるのを感じながらいただいています。
というのも、大根の辛み物質には胃酸の分泌を高め、消化を促進する働きがあるからです。さらに、大根に含まれる、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなど複数の消化酵素には胃腸の働きを助ける役目もあります。
大根の辛みは、アリルイソチオシアネートという化学物質によるものです。大根をすりおろしたり切ったりすることで細胞が破壊されると、大根中の別々の場所に存在していたグルコシノレートと芥子油配糖体が混ざり合い、ミロシナーゼと呼ばれる酵素によって、アリルイソチオシアネートを生成する化学反応が起きます。
大根は部位によってアリルイソチオシアネートが含まれる量が異なるため、辛みの感じ方も、どの部分を調理するかによって違ってきます。大根の先端に近づくほどアリルイソチオシアネートの量は多く、その量は葉に近い部位の約10倍にもなります。
また、若い大根ほどアリルイソチオシアネートの量は多く、成長するにしたがって減っていきます。アリルイソチオシアネートは揮発性で時間経過と共に失われていくため、辛みを楽しむには、食べる直前におろすのがおすすめです。また、野菜スティックとしてかじったり、繊維に沿っておろしたりすると細胞が壊れにくく、アリルイソチオシアネートが生成されにくいので、繊維を断ち切るように大根おろしにするのが理想的です。
このように、大根は消化を助ける成分を多種類含み、揚げ物、天ぷら、肉料理など、胃に負担がかかるとされる料理との相性が非常に良い食材です。ただし、おでんのように加熱してしまうと消化酵素は失活してしまうので、大根の効果を最大限活用するには大根おろしが理想的だと思われます。
日本食で死亡リスクが低下する?
さて、そんな日本食の代表素材ともいえる大根ですが、「日本食パターンのスコアが高い食生活を送っている人ほど死亡リスクが低い」という論文が国立がん研究センターから出されて注目を集めています。
この研究は、全国の45~74歳の10万人以上に対し、食事調査アンケートを行い、その後、約20年間アンケート回答者を追跡調査し、食生活にどの程度日本食が取り入れられているか(日本食パターン)と死亡リスクとの関連を調査したものです。日本食パターンとして用いられた指標は、ご飯、みそ汁、海草、漬物、緑黄色野菜、魚介類、緑茶の摂取量の多さと、牛肉・豚肉の摂取量の少なさでした。
追跡期間中に、アンケート回答者のうち22%に相当する約2万人が死亡し、一人ひとりの日本食パターンと全死亡、がん死、循環器疾患死、心疾患死、脳血管疾患死のリスクが解析されました。
その結果、日本食パターン率が最も高い集団は全死亡リスクが14%と、統計的に意味のある違いを持って低いことがわかりました。日本食パターン率が低い人々の間でも、より日本食パターンが高い人の方が死亡リスクが低い傾向も見て取ることができました。
全死亡率の他、循環器疾患死と心疾患死も同様に日本食パターン率が高いほど死亡リスクが低いことが確認されましたが、一方で、がん死や脳血管疾患死のリスクは日本食パターンと相関が見られませんでした。
摂取している日本食の素材別に見ると、海草、漬物、緑黄色野菜、魚介類、緑茶の順で全死亡リスクが低くなっていました。ご飯やみそ汁、牛肉・豚肉に関しては、摂取量の多い・少ないと全死亡リスクの間に相関は見いだせませんでした。
以上の結果から、研究者らは、日本食パターン率が高いほど死亡リスクは低く、特に、食物繊維や抗酸化物質、カロテノイドやエイコサペンタエン酸など、健康効果が知られている成分の含有率が高い食材ほど、効果が高いと考察しています。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)
【参考資料】
『マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-』(共立出版/Harold McGee 著、香西みどり監訳、北山薫、北山雅彦訳)
「Association between adherence to the Japanese diet and all-cause and cause-specific mortality: the Japan Public Health Center-based Prospective Study」(European Journal of Nutrition <2020>)
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