「難消化性デキストリン」の科学的根拠はいい加減!?
逆にこの単一成分の効果を最大限に利用しているのが、「トクホ」を冠したお茶やコーラだ。昨今、週刊誌などで叩かれているが、「糖」や「脂肪」の吸収を抑える「トクホ茶」や「トクホ・コーラ」には、いずれも「難消化性デキストリン」という成分が入っている。つまり、科学データがある単一成分さえあれば、「向かうところ敵なし状態」である。
この科学データに基づいて、企業は最大限の広告をする。「これさえ飲んでおけば、カロリー過多の食事も脂肪や糖がたっぷりありそうな食事も気にせず食べられます」というイメージを与えているので、消費者は皆、国が認めた効果だから間違いないだろうという信頼を持って、せっせとトクホ飲料を購入する。しかも、食事や運動などの生活習慣を顧みることなく。
ところが、その要である「難消化性デキストリン」の科学的根拠が、いい加減だったということが話題となっている。
効果を示す有意差とするにはあまりに微小な差で「誤差」とする専門家もいることや、そもそも効果を立証するデータを出しているのが「難消化性デキストリン」の原料メーカーの一論文に起因していること、権威ある欧州食品安全機関(EFSA)がその効果を「因果関係は確認されていない」として否定していることなどが問題提起されている。
パッケージの文言や宣伝文句に振り回されないように
今回はトクホだからやり玉に挙がっているが、実際、こうした科学的論拠の是非を問い始めれば、枚挙にいとまがないだろう。
こと機能性表示食品にいたっては、形式的に科学データがそろっていれば良しとされているため、その詳細を検証すれば、論文の質が問われるものはいくらでもあるだろう。しかもトクホよりかかる費用は、桁違いに低く、かつトクホより自由に効果が謳えるのだから、当然、同様の問題は潜んでいる。
消費者にとっては「科学的に立証されている」「臨床データがある」などと言われれば、信頼せざるを得ない。そして、たったひとつの論文から、まるで夢のような効果が宣伝されれば、それを自分に置き換えて実現するものだと理解する。
そこで消費者が知るべきは、以下の3点だ。
・科学が「食品成分と健康」の曖昧な関係を解き明かせるほど優秀でないこと
・健康への効果は個人差が大きいということ
・そもそも企業は売るために宣伝広告をしているのだということ
これらをしっかりと認識して、パッケージの文言や宣伝文句に振り回されないように気をつける。とどのつまり、自分の体感で効果の有無をチェックするしかないということを理解しよう。
もちろん、科学も日進月歩だ。そのうち確からしい科学のモノサシも登場するかもしれない。それを期待して、今は「科学的根拠」を横目で眺めていたほうが無難だ。
(文=後藤典子)
後藤典子(ごとう・のりこ)
ジャーナリスト、一般社団法人日本サプリメント協会理事長、農医連携ユニット理事。同志社大学文学部卒業後、編集プロダクションを経てジャーナリストに。政治・経済評論をテーマにした取材・執筆を主軸としてきたが、サプリメントの取材をきっかけに市場の歪んだ情報の蔓延に義憤を感じ、生活者のための公正中立な情報の必要性を痛感。2001年、NPO日本サプリメント協会を発足、中立な情報機関として活動を始める。書籍の発刊や、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど、マスメディアにおいて執筆・評論・コメントを行うとともに、生活者や企業を対象とした講演活動を通じて、ヘルス・プロモーションの啓発に努める。現在、農と医をつないで健康と食の問題を検証するプロジェクト「農医連携ユニット」に関わるとともに、「日本サプリメント協会」を通して生活者の健康リテラシーを向上させるための情報活動を行っている。