少しでも体重は減らしたいけれども、清涼飲料類が大好きで、それをいっさい口にしない生活はがまんできない--。そんな人にとって、ダイエット飲料の登場は「救世主降臨」とさえ思えたことだろう。
しかし、「ダイエット」と謳われてはいるが、人工甘味料入り飲料を1日1杯飲んでいる人は、週1回未満の頻度の人に比べて、脳卒中や認知症の発症リスクがほぼ3倍に高まるようだ。
そんな研究報告が、『Stroke』5月号に掲載されて耳目を集めている。米ボストン大学医学部神経学部、Matthew Pase氏らの研究陣による最新知見だ。
Pase氏らが分析対象に選んだのは、フラミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)の第2世代コホート参加者のデータである。具体的には、45歳過ぎの2888人分から「脳卒中」の発症データを抽出し、60歳以上の1484人分から「認知症」の発症データを収集した。
1日1杯の疾患リスクは?
この10年間におよぶ追跡研究の期間中、記録者たちは3回に渡って飲食の習慣を問い、被験者ごとの飲みものの頻度もアンケート調査していた。
そこにPase氏らの分析を加味すると、それぞれの世代対象集団において、3%が脳卒中を発症し、5%で認知症を発症していた。後者の大半はアルツハイマー病であることも判明した。
さらに年齢/性別/学歴/食事量などを考慮した上で詳細な分析を進めていくと、ダイエット飲料をまったく飲まない(もしくは週1回未満の)人と比べ、1日1杯以上口にする人は脳梗塞リスクが2.96倍、アルツハイマー病リスクが2.89倍にのぼる傾向が読み取れた。
本研究は、それらの因果関係を求め、明らかにすることを目的とはしていない。実際の結果から認められる脳卒中や認知症の患者数もごく少数であり、「絶対リスク」と呼ぶには依然として足らない数値を表している。
ダイエット飲料とこれら疾患の関連がみられる理由についても、研究陣は「不明である」と述べている。だが、Pase氏らは報告書のなかで次のような見解を示している。
「過去の先行研究においても、ダイエット飲料は血管疾患や体重増加に関連しており、腸内細菌を変化させるとの見解が示されてきた。さらに我々の研究成果として、人工甘味料入り飲料が身体に及ぼす影響、さまざまな疾患をもたらすであろうリスクについて調べる必要性がある点が示唆されたと思う」
甘さは脳の大敵か?
この点について、脳卒中の専門家にして筆頭著者のHannah Gardener氏(米マイアミ大学)も「確かに決定的なものだとは言い切れない」と率直に認めつつも、次のように語っている。
「何も今すぐダイエット飲料をやめるべきだとは考えないが、(加糖飲料から)ダイエット飲料への変更が脳の健康にとってよいものかどうかも依然不明であることも事実だ。現時点でいえるのは、加糖飲料が心臓にも脳にも不健康だというエビデンスは確立しているということである」
一方、飲料の業界団体は今回の見解に対し、黙っていない。米国飲料協会(ABA)はさっそく、下記のような声明を公表してPase氏らの最新知見に異議を唱えた。
「低カロリー甘味料は多くの科学的研究によって安全だと証明されている。米国食品医薬品局(FDA)、世界保健機関(WHO)、欧州食品安全局(EFSA)などの機関も、消費上安全であるという結論を下している。今回の研究はそれらの判断を覆すものを提示しているとは到底認められない」
とはいうものの、Rase氏の助言が正鵠を射ているのかもしれない。「加糖飲料をダイエット飲料に置き換えれば健康的だというわけでもなく、あくまでも飲み過ぎには注意を促したい」。
とにかく、売る側がややあおり気味に謳う商品特性にまんま躍らされることなく、その効果と影響力をじぶんなりに把握して購入する姿勢が消費者側に問われている。
(文=ヘルスプレス編集部)