2011年3月東日本大震災から6年がたった。6年という月日は、人々の記憶の中で震災を完全に過去の出来事としてしまったのだろうか。
震災のその後にフォーカスした報道が減っているのは明らかだ。筆者は福島で生まれ育った。福島を離れ関東に暮らしてはいるが、故郷には愛着がある。時折帰る故郷は、表面的には穏やかさを取り戻しているように見えるが、その穏やかさとは裏腹に、まだ不安を抱える人がたくさんいる。
東京電力福島第一原子力発電所の事故で、原子炉から漏れ出した放射線物質の影響は、目には見えない。その目に見えない影響は、いつ、どのように健康被害として現れるのか予測がつかないという不安をもたらす。健康被害を最小限に食い止めるには、放射能に汚染された場所や物から遠ざかることがもっとも有効だ。そして放射線量を具体的な数字で知ることが重要になる。
放射能に対する地域住民の不安を少しでも軽減するため12年12月、いわき市小名浜花畑町に「放射能を識知する」ことを使命とする「いわき放射能市民測定室たらちね」が設立された。
地域住民の現在の声
たらちねで働くスタッフたちのほとんどは、地元の母親たちだ。彼女たちの声は、まさしく地域の母親たちの思いである。彼女たちは、こう話す。
「震災後、原発事故による広範な放射能被害の下で、不安な生活を強いられてきました。事故当初から学校での給食は選択制になり、『給食』『ごはん(米)のみ持参』『弁当持参』の3つから選べるかたちになっています。不安を少しでも減らすには、放射能汚染を数値で確認し、安心して食べさせることができる食材を使用するしかありません」
筆者も子を持つ身なので、福島の母親たちの気持ちは痛いほどわかる。そのように放射能汚染を懸念する母親たちが食材などの放射線量の測定を依頼しに訪れるのが、たらちねである。
放射能測定の必要性
たらちねは、放射能の定点測定を行う。福島県教育委員会の許可のもと、県内200カ所を超える幼稚園、保育園、小・中・高校でのダストサンプルの放射線量測定を実施している。また、いわき市漁協の協力を得て定期的な海洋調査も手がける。その一方で、県内外からの放射線量測定の依頼も受けている。
いわき市行政も放射線量測定の依頼を受けているが、自家栽培した物に限られる。それに対し、たらちねに持ち込まれる検体は、農作物、スーパーマーケットで販売される食品、雑草、木の実から虫やみみず、腐葉土、薪ストーブの灰、掃除機のゴミなどさまざまだ。それも、地元ばかりでなく遠方からも数多く寄せられる。