危険ドラッグに手を染めた動機は「知人や友人に勧められた」が47.5%
警察庁と厚生労働省は2014年7月、麻薬に似た作用を持つにもかかわらず、化学構造が一部異なるため、薬物4法(「麻薬及び向精神薬取締法」「大麻取締法」「あへん法」「覚せい剤取締法」)や「医薬品医療機器法」で販売・使用などが規制されていない物質を「危険ドラッグ」と呼ぶこととしました。それまでは「脱法ドラッグ」と呼ばれていたものです。
当局は、摂取によって強い症状が出るものに対して優先的に成分を指定して規制していますが、構造の一部を変えたものがすぐに出回るので、いたちごっこが続いています。専門家の推計によると、危険ドラッグの使用経験者は、40万人にも上るそうです。
ある大学教授が、危険ドラッグについての調査を行いました。調査の方法は、医療分野のアンケート調査に実績があるインターネット調査会社に依頼して、マーケティングに登録しているモニターに対して危険ドラッグの使用歴を調査したものです。
その結果、使用歴がある人の割合は1.6%であり、冒頭で述べたような1000人に1人をはるかに超えていました。
使用者を対象にした調査では、動機として「知人や友人に勧められた」が47.5%と最も多くを占めていました。そして、60.6%の人が「使用仲間がいる」とのことです。これも私が矯正施設にいる少年たちから聞いた情報と同様の傾向です。やはり悪の誘いが元凶ということです。また健康面を調べると、危険ドラッグを使用した後に体調が悪化して医療機関を受診した人は、21.2%を占めていました。
このような状態で搬送される患者を数多く診察してきた医師によると、搬送された人の症状で多かったのは、悪心・嘔吐・動悸など「交感神経が興奮する症状」や、興奮・不安・恐怖・錯乱といった「精神神経に影響する症状」とのことです。
しかし、必ずしも軽症で終わらず、全身の筋肉が壊れてしまう「横紋筋融解」を呈する患者が約10%、「肝臓や腎臓の障害」がそれぞれ約5%ずつと、無視できない割合で見られました。その医師が勤務する病院に担ぎ込まれた危険ドラッグ使用者の35%が結局、入院となったそうです。
乱用者の多くが治療を受けていない
2014年、精神科病床がある全国の医療施設を対象に、調査が行われました。その結果、薬物乱用が原因で精神科の医療施設に入通院した人は過去最高を記録したそうです。原因となった薬物は、「覚せい剤」が42.2%と最も多く、「危険ドラッグ」が23.7%と続きました。
しかしながら、医療施設や都道府県などの精神保健福祉センターで薬物依存から抜け出すための「認知行動療法」を行った人は37.6%にすぎませんでした。多くの薬物乱用者は、ほとんど治療を受けていないののが現状なのです。
ある学者が、次のように非常に興味深い指摘をしています。
「1960年代後半から先進国に広まった若者文化には、精神活動に作用する薬物の使用を容認する姿勢があり、いわゆる乱用薬物の拡大を助けたことは歴史的事実である」
若者だけではありませんが、国民の0.1%を超える人が薬物乱用に手を染めているというのは異常な社会です。歪みは弱いところに集中します。その弱者は中学生や高校生に集中し、未来ある子供たちを社会が蝕むのは許せないことです。オールジャパンで「身近になってしまった」薬物乱用社会を是正しなければなりません。
(文=一杉正仁)
一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)
滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。