1961年4月、ロシアのユーリ・ガガーリン宇宙飛行士は、宇宙船ボストークに搭乗、「地球は青かった」の名言を残し、人類初の有人宇宙飛行を成功させた。以来56年の幾星霜……。
2016年11月現在、高度100km以上の宇宙空間から青い地球を見つめた宇宙飛行士は550人を数える。トップ3は、アメリカ338人(男性292、女性46人)、ロシア120人(男性116人、女性4人)、日本11人(男性9人、女性2人)だ。
人類最後のフロンティア、宇宙へのチャレンジは続くが、宇宙飛行士が被る宇宙線被曝による健康障害が重大な難題となっている。それは、どれほどリスキーなのだろうか。
火星探査に伴うがんの発症リスクは、従来の推定モデルよりも2倍以上も高い
米ネバダ大学ラスベガス校の宇宙物理学者であるFrancis Cucinotta氏らの研究グループは、宇宙飛行士が地球から火星まで飛行すれば、「がんの発症リスク」が急激に上昇する恐れがあり、長期的な深宇宙探査による放射線被曝は、損傷した細胞の近くの正常細胞にも悪影響を及ぼすとする研究成果を5月12日付『Scientific Reports』に発表した(6月15日付「HealthDay News」より)。
発表によれば、宇宙空間には高エネルギーの放射線である宇宙線が飛び交い、宇宙線に含まれる陽子や重イオンからの曝露は、深刻な細胞損傷を引き起こす。
今回の研究では、宇宙飛行士が深宇宙への長期にわたるミッションを遂行する過程で、損傷した細胞の周囲にある正常細胞も発がんリスクが高まることを想定したモデル(non-targeted effect model)を活用し、火星探査に伴うがんの発症リスクを推定した。その結果、がんの発症リスクは、従来の推定モデルを活用した場合よりも2倍以上も高いことが判明した。
Cucinotta氏は「宇宙線の曝露は、細胞核を破壊して変異を引き起こし、がんを発症させる恐れがある。さらに、損傷した細胞が周囲の正常細胞にシグナルを送り、組織の微小環境を変化させる。そのシグナルが正常細胞を刺激して変異を促すため、さらに多くのがんが発生する」と説明する。