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間違いだらけのチャイルドシートの利用法…かえって子どもを危険にさらす着用が横行

文=一杉正仁

エアバッグがついていても子どもは後部座席に

 現在、ほとんどの自家用車は、前席にエアバッグが搭載されており、時速十数km以上の前面衝突で展開します。エアバッグは、シートベルトでは不十分な乗員の前方移動を抑える働きがあります。

 あまりにシートベルトが強力すぎると、それによって骨折などが生じるため、シートベルトとエアバッグの双方の機能によって安全が確保されています。しかし、大人でも子どもでも、シートベルトをしないで前席に乗車すると、開いたエアバッグが時速約300kmで体に突っ込むことになります。

 では、子どもが前席でブースターシートを使用してシートベルトをした場合はどうなるでしょうか。

 適切に拘束されていなければ体が前方に動くので、同様に危険です。それから、子どもは体をよく動かしたり、手を前に出して遊んだりします。この時に衝突事故に遭えば、体の一部がエアバッグに衝突するので危険です。

 チャイルドシートも同様です。少しでも緩んでいたらチャイルドシートが前に移動するので、その時にエアバッグが展開すると、シートが飛ばされる危険があります。

 このような点を考慮すると、やはり子どもは後部座席に乗せるべきでしょう。海外では「10歳未満の子どもを前席に乗車させてはならない」と法で規定している地域もあります。

「後部座席だから安全」ではない

 日本自動車連盟が毎年、シートベルトの着用率を調査しています。それによると、一般道における着用率が、運転席では98.4%、助手席では94.6%であるのに対して、後部座席では35.1%と低い結果が出ています(2015年)。後席のベルト着用が法律で義務化されたのが2008年以降であることも影響しているでしょう。

 ところで「後部座席は前部座席よりも安全だ」という誤解が多くの人にあると思います。衝突時に体が移動すれば、車室内の構造物との打撲で損傷を負います。また、前方に飛ばされたり、乗員同士の衝突で受傷することがあります。

「後部座席だから安全」というわけでは決してありません。後部座席の人がきちんとシートベルトを着用しないと、前部座席の人への危険性が増します。前面衝突事故を検討した報告では、後部座席の人がシートベルトをすれば、前部座席に乗車している人の死亡率や重症損傷を負う率も下がるそうです。

 やはり、子どもを自動車に乗せる時は後部座席が基本。小学校に入るまではチャイルドシート、小学生ではブースターシートを用いて、正しくシートベルトを着用してください。法律に規定されていなくても、これが子どもにとって最も安全な状態です。子どもを危険にさらさないよう、大人が見守りましょう。
(文=一杉正仁)

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)
滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。

連載「死の真実が”生”を処方する」バックナンバー

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