動物には、私たちの心を癒す不思議な力がある。でも、それだけではないのかも。
アメリカでバンド活動を行い、その後、ドイツ、スウェーデン、イギリスで音楽活動を続けながら、仙台市の翻訳事務所で専属の通訳、通訳家として活動しているM.IWASA氏は、子どもの頃からペットと触れ合うこともなく、大人になってからも音楽活動に集中する生活をしていたという。そんなM.IWASA氏だが、ある猫と出会ったことで、人生観や運命までもが変わっていくことになった。
東日本大震災のショックを和らげてくれたネコ
『猫が飼い主を育てる甘い生活 最愛なるハリーに敬意を表して』(M.IWASA著、文芸社刊)では、M.IWASA氏と猫のハリーと生活した軌跡を紹介する。
2011年、当時、M.IWASA氏はドイツのベルリンでセッションミュージシャンとして、レコーディングスタジオで活動していた。M.IWASA氏は彼女のマリンの家を訪れ、彼女の飼い猫のマリンと初めて出会う。
2011年といえば、日本では東日本大震災が起こった年である。震源地は東北、宮城県沖。M.IWASA氏は、両親や親戚が住んでいる仙台市や宮城県に津波が押し寄せる映像をテレビやインターネットを通じて目にした。そして、痛ましいことに、親族の一人が犠牲になってしまう。
津波の被害、家族の苦痛を知り、M.IWASA氏は大きな悲しみにくれていた。そのとき、ハリーがM.IWASA氏の膝の上に乗ったという。励まそうとしてくれたのかはわからない。しかし、M.IWASA氏は、このときの温かい感覚、猫の包容力、気持ちの落ち着く感じを今でも鮮明に憶えているという。
M.IWASA氏がハリーと出会う前までは、自分中心の生活、自分のことだけを考える生活を送っていた。ハリーと出会ったことで、初めて自分より優先して考える存在が出来たのだという。
「ハリーは何を食べたいかな」「ハリーは快適に感じているだろうか?」と、自分の感情より先にハリーの感情を考えるようになった。この経験から、ハリーはM.IWASA氏に責任感を与え、自己愛を超える慈愛の精神を育む生活を送るようになる。
また、ハリーとの生活を始めたことで、猫の目線で物事を考えられるようになったという。人間の都合や感覚で物事を判断するのではなく、猫や犬、他の生物の立場に立って物事を考えられるようになったことで、動物愛護の精神が芽生えた。その結果、自然界に対して、敬意と尊敬の念を抱くようになったのだ。これは、猫が人に気づきを与え、成長のきっかけを与えたといえるのではないだろうか。
ハリーは糖尿病を患い、その生活についても本書では綴られている。そんなハリーとM.IWASA氏の生活は、猫と生活する読者にとってはうなずける点が多いはず。猫との生活がいかに幸せか。本書を通じて再確認してみてはいかがだろう。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。