夏の盛りが過ぎ、秋風が吹く頃になると、おいしい秋の食材が出回りはじめるのが楽しみになってきます。なかでも筆者は「新そば」を楽しみにしています。あの香りと味は、何ものにもかえがたいものです。うどんもそうめんも大好きですが、やはり究極の麺類となると、そばです。
新そばは、10月中旬くらいから出始める「秋そば」が主ではありますが、その前に出る「夏そば」もあります。香りや味は秋そばにかないませんが、夏そばにもそれなりのおいしさがあります。
そばの栄養価の高さは、つとに知られていますが、特にルチンの効果・効能は有名です。植物栄養素の一種である、ポリフェノールの仲間のフラボノイドに分類されるルチンという栄養素は別名「ビタミンP」とも呼ばれ、適正に血圧を下げ血栓ができるのを防ぎ、強力な抗酸化作用でがんや動脈硬化、心臓疾患などの、いわゆる生活習慣病を予防するといわれています。抗菌・抗ウィルス作用も強く、免疫力強化にも役立ちます。
そんな効果を知ってか知らずか、そばは昔から世界中で食べられてきた、優れた食材のひとつです。そばはタデ科の植物なので、正確にいうと穀物ではなく、ヒユ科のアマランサス、アカザ科のキヌアなどと並んで、擬穀物(ぎこくもつ)と称されます。いつ頃、どのようにして日本に伝来してきたのかは定かではありませんが、縄文時代後期の遺跡からそばを食べていた痕跡が見つかっているといいますから、その歴史はそうとう古いです。
ルチンのほかにも、そばにはビタミン様作用物質と呼ばれるコリン、ビタミンB1やパントテン酸などのビタミンB群、必須アミノ酸のリジンやトリプトファン、そして腸内の有害物質の排泄を促し便秘を解消してくれる食物繊維など、重要な栄養素が豊富に含まれています。
コリンは私たちの神経細胞を造る成分のひとつですが、記憶力をはじめとする脳のさまざまな機能にかかわっていると考えられています。アルツハイマー病の人にはコリンが不足しているというデータもありますから、日常の食生活でしっかり摂っておきたい栄養素です。また、コリンは体内でレシチンや、アセチルコリンという物質の原材料にもなり、血管内壁に余分なコレステロールなどがたまるのを防いでいるのです。したがって、コリンが十分にあると動脈硬化を防ぐだけでなく、肝臓に脂肪がたまることも阻止してくれます。