ワインの「美味しさ」の正体を解明…約1000種類の化学物質
複雑な物理現象が生み出す「ワインの涙」
最後に、みなさんは「ワインの涙」をご覧になったことがあるでしょうか。ソムリエがワインを注いだ後、くるくると回して香りを楽しみ、一口飲んで味わう。そして、ワイングラスをテーブルに置く。この後、普通はテーブルを囲んでの談笑に入るわけですが、このときグラスの中でワインが“涙”を流しているのです。
ワインの涙とは、グラスの内側、ワインと空気の境界付近でワインが天に向かって涙を流すように液滴が上っていく現象です。ガラス、ワイン、空気の3つが接している部分では、非常に複雑な固体・液体・気体間の物理的な相互作用が起きています。
そのなかで、アルコールだけは時間の経過と共に蒸発してしまう性質があり、アルコールの蒸発は水とガラスの相互作用を刻々と変化させます。アルコールが蒸発するにつれて、水はガラスに引き寄せられ、あたかも涙を流すかのように上昇する雫を形成します。
ところが、ある程度上昇すると、雫は重力に負けてワインの中に戻ってしまいます。これを繰り返すことによって、ワインは涙を流し続けます。特に、アルコール度数の高いワインを暖房の効いた部屋で飲むと、このワインの涙を頻繁に見ることができます。
今年のボジョレー・ヌーボーを飲む際は「この中では複雑な物理現象が起きているのだなぁ」と思い出しながら、ワインの涙に注目してみてはいかがでしょうか。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ グループリーダー)
【参考資料】
『カリカリベーコンはどうして美味しいにおいなの?食べ物・飲み物にまつわるカガクのギモン』(化学同人/Andy Brunning著、高橋秀依、夏苅英昭訳)
『マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-』(共立出版/Harold McGee 著、香西みどり監訳、北山薫、北山雅彦訳)
「Alcoholic beverage preference and diabetes incidence across Europe the Consortium on Health and Ageing Network of Cohorts in Europe and the United States (CHANCES) project」(QUEEN’S UNIVERSITY BELFAST)