日々の食事をつくるうえで、フライパンを毎日のように利用しているという家庭も少なくないだろう。実際、2013年に日本調理科学会が、509名の家庭での調理担当者を対象にアンケートを行った結果、フライパンを毎日1回以上使うという人の割合が過半数を占めていたという。
だが、そんなフライパンや鍋の素材として使われているステンレスやアルミニウムが、脳をはじめとした人体に有害であるという噂を聞いたことがある方も少なくないだろう。
ステンレスから有害物質「六価クロム」が生成される?
ある管理栄養士は語る。
「通称ステンレスと呼ばれる金属は、鉄とニッケル、クロムからなる合金のステンレス鋼のことですが、これは安価でサビに強いこともありフライパンや鍋のほかにも、包丁や流し台など調理器具やキッチンまわりで幅広く使用されています。
ですが、このステンレス鋼に含まれるクロムから生成される六価クロムという物質が、人体に取り込まれた際に発がん性物質となることや、金属中毒による多臓器不全を引き起こす危険性があるといわれてます。
とはいえ、ステンレスは1000℃を超えても安定している合金なので、普通に調理で使っているだけであれば、ステンレス鍋に含まれるクロムは六価クロムに変性することはまずありません」
アルミニウム鍋を日々使用しても過剰摂取にはならない
一方、アルミニウムについては総合情報サイト「All About」で「家庭の医学」ガイドを務める医学博士・日本小児科学会専門医の清益功浩氏に話を伺った。
「アルミニウムというのは、身体にとっての役割はまだわかっていないことが多い成分なのですが、そもそも地球上に多く存在する金属元素であるため、実はありとあらゆるさまざまな食物に含まれている物質なのです。ただし、摂取した量に対して身体に吸収される割合が約0.1%ととても低く、JECFA(合同食品添加物専門会議)で定められた人間のアルミニウム暫定的週間耐容摂取量を上回ることはないだろうとされています」(清益氏)
通常、人間の1日のアルミニウム摂取量は1~10mgとされており、清益氏によると、アルミニウム鍋ですべての調理を行った場合、1回の調理当たり平均1.68mgのアルミニウムが料理に含まれるという。この場合、1日3回の食事を1週間、アルミニウム製の鍋で調理したと仮定しても、摂取量は35.28mg。JECFA規定の暫定的週間耐容摂取量は、体重1kg当たり週に2mgであるため、たとえば成人男性の平均体重64kgに当てはめると128mgとなり、35.28mgは人体への影響はほぼないと考えられる。
アルツハイマー病などとの関連性
ではなぜ、アルミニウムが危険視されているのだろうか。
「それは以前、アルツハイマー病患者の脳にアルミニウムが蓄積されていたという診断結果が医学界から発表されたことに起因しているのだと思います。もっともアルツハイマー病はさまざまな原因で引き起こされる病のため、アルミニウムが原因であると考えるのは非常に早計です。また、透析脳症患者の脳のアルミニウム含有量が高かったこと、未熟児に対してアルミニウムを投与した結果、皮膚障害が起こったことなどが一部の論文で報告されていることも一因に挙げられるでしょう。
ですが、これらは人が一般的な生活を送っていくうえでのアルミニウム摂取量が考慮されておりませんし、このアルミニウムの危険性を訴えた論文を否定する論文も存在しているため、アルミニウムが危険なのかどうかというのは、実際問題はまだ結論が出ていないというのが実情です」(同)
WHOはこれらの仮説や疫学データの多くが、総アルミニウム摂取量の考慮が行われていない研究結果であるため問題があるというスタンスであるものの、一概に仮説を却下することはできないとの見解も示しているという。
「現時点では有害であると証明できていませんが、逆にいえば有害でないとの証明もできていないため、脳内へアルミニウムの移行が多いとされる新生児、未熟児に対しては、特に充分な注意が必要なのかもしれません」(同)
アルミニウムを身の回りからすべて排除しようとするのは過剰反応すぎるのかもしれないが、かといって安心・信頼できる物質だとも言い切れないようだ。どう付き合っていくかは、各人の判断にゆだねるしかないというのが現状なのだろう。
(文=A4studio)
●専門家プロフィール
All About「家庭の医学」ガイド 清益功浩(キヨマスタカヒロ)
法律、経済など多くの資格をもつ現役のアレルギー・小児科医師医学博士。日本小児科学会認定専門医、日本アレルギー学会認定専門医・指導医。他にも、メンタルヘルスマネジメント始め、法律、経済、化学などについて多岐に渡る資格を有する。