皆さんは昆虫料理を食べたことがあるだろうか。昆虫は、豚肉などより低カロリーで高タンパクであり、環境負荷の小さい食材として、迫り来る人口増加に伴う食糧難の時代の有効な解決策として昨今注目を集めている。
10月上旬、昆虫料理をつくって食べる「バッタ会」に参加したので、その様子をレポートしよう。
通には桜毛虫の佃煮、ビギナーにはバッタパウダー入りクッキー
今回食材となったのは、モンクロシャチホコというガの幼虫である「桜毛虫」と、コオロギ、バッタだ。
桜毛虫は、乾燥させたものと酒漬けにしたものが用意された。酒漬けした桜毛虫の大きさは乳児の指より細長い。黒っぽく、毛がふさふさとしていてギョッとしてしまうが、匂いを嗅いでみると桜餅のような香りがする。桜の葉を食べるため、その香り成分「クマリン」を体内に取り込むためだという。参加者の20代の女性は、初めは怖がっていたが、最終的には「いい匂い!」と吸い込むように嗅いでいた。
これらはプチキッシュ、トレハロースで固めたヌガー、佃煮として料理されたが、なかでも好評だったのが佃煮だ。つくり方は、酒漬けにした桜毛虫を軽く油で炒め、香ばしい香りがたってきたら、めんつゆと砂糖を入れて煮立たせる。仕上げにみりんで照りをつけたら完成だ。油でしっかりと炒めてあるので表面はカリカリ、噛むとじゅわっと中から汁が溢れて口中に桜の香りが広がる。特異な味はせず、醤油と調和していて美味しい。虫感を前面に出した挑戦的な見た目と、華やかな味わいのギャップが楽しい。冷やした日本酒や白ワインに合いそうだ。
桜毛虫は7月から9月にかけて発生し桜の葉を食べる害虫だが、このように料理に生かすことができれば、駆除作業も楽しくなるかもしれない。なお、その際には殺虫剤は用いずに捕ること、捕まえたあとはすぐに殺さずに1日かけてフン抜きをすることが必要だ。
コオロギとバッタはクッキーの材料になった。コオロギはそのままの姿でローストさせたもの、バッタはパウダーにしたものが市販されているのでそれを用い、それぞれクッキー生地に混ぜ込んで焼く。
バッタパウダーは鰹節のような香りでそれ自体に旨みがあるので、たこ焼きやお好み焼きに混ぜてダシとして使うのもいいかもしれない。乾燥コオロギは、筆者は怖くて味見できなかったが、ほかの参加者によるとサクサクして香ばしく桜エビのような味とのことだった。
焼きあがったコオロギクッキーとバッタパウダークッキー、どちらも桜エビを炙ったような、それでいて甘い香りがたつ。コオロギクッキーは、見た目はチョコチップクッキーのようで、クッキーの生地とサクッとしたコオロギの食感と味のメリハリが楽しめる。一方バッタパウダークッキーは、見た目は一般的なクッキーと変わりないため昆虫料理ビギナーにオススメだ。味は、桜エビクッキーといったところか。
勇気を出して食べてみれば意外に美味しい
今回の参加者は、昆虫食は初めてという人がほとんどだった。筆者のように虫嫌いの人もいたかもしれないが、最終的には全員が昆虫食を楽しんでいた。自分たちの手で料理をすると、虫に対する恐怖よりも味に対する好奇心が優って、口に運びやすくなるのかもしれない。初めは「毛虫の顔がこっち見てる、気持ち悪い」と箸で掴むのもやっとだったのが、味わってみると「何これ、美味しい」という驚きが生まれ、箸が進んだ。今回食べた昆虫たちは桜餅や鰹節、桜エビなど、今までに味わったことのあるものと似ていて馴染みやすく、決して得体の知れない不気味な味ではなかった。
バッタ会の本来の活動内容は、バッタを捕獲して処理し、料理して味わう、というものだが、今回は悪天候のため急遽昆虫料理を楽しむ会に変更となった。バッタ会の主催者である食用昆虫科学研究会の水野壮氏は、昆虫を捕らえて味わう楽しみ方を「プチジビエ」と呼んでいる。イノシシや鹿など害獣とされる動物を銃で狩って美味しく頂くジビエに対して、虫取り網を片手に誰でも手軽にできるという意味と獲物のサイズから「プチ」をつけた。プチジビエの魅力は、(初心者にとっては)昆虫を食べるスリルやその味ももちろんだが、自分で食材を捕って料理し食すプロセスにある、と水野氏は考えている。
どの虫がどんな味なのかを知りたい人は食用昆虫科学研究会のHPを参考にしてみてはいかがだろうか。バッタからカブトムシ、トンボまでさまざまな種類の虫の味と適した調理法を紹介している。また虫パスタや缶詰が手軽に買える通販サイトもある。あなたがその気にさえなれば、昆虫食への扉は開かれているのだ。
(文=田端萌子/サイエンスライター)