昨年の3月、安倍政権による働き方改革が、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジとして始まりました。その背景には、日本における労働人口の減少、海外でも日本でも顕在化し固定化しつつある格差社会の問題、そして電通の高橋まつりさん事件(長時間労働による死)などがありました。そのようななか、働き方改革では、現代日本の働き方における長時間労働、正規・非正規の不合理な処遇の差、単線型の日本のキャリアパスを代表的な課題とし、改革を計画しました。
働き方改革が始まってちょうど1年たつ今月、この1年間で実際に働く人たちの現場で何が変わったのか、変わっていないのか、そしてその理由はなんなのか、年間1000人の働く人と面談を行っている産業医の視点で、上記3点について働き方改革のこれまでを考察したいと思います。
働き方改革の基本的な考え方は、「多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいく」ことです(「働き方改革実行計画(概要)」、平成29年3月28日、働き方改革実現会議決定より引用)。
働く方一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち得るようになる結果、少子高齢化に伴う労働人口低下などのさまざまな課題も克服可能になり、日本の生産性向上や成長戦略につながるというのが、働き方改革の基本的考えなのです。
つまり、働き方改革こそが人々のやる気スイッチを押して労働生産性を改善するための最良の手段であり、労働生産性を改善するための手段が働き方改革ではないのです。
長時間労働の是正
それではこの1年間で、まず長時間労働の是正はどうなったでしょうか。残念ですが、企業努力にもかかわらず、本当に長時間労働がなくなったとは、産業医の私は感じていません。長時間労働の是正を嫌がる人はあまりいないと思いますが、なぜ、これが進まないのでしょうか。
多くの会社は、平成27年の電通事件以後、社員の残業時間を本気で減らそうとしています。しかしながらその対象はあくまで、三六協定の対象となる社員たち、つまり若手社員たちです。その結果、若手社員から減らした労働時間分の仕事を、三六協定の対象外の社員たち、つまり彼らの上長である管理職がやることとなり、上長たちの残業時間が増えているようです。ほとんどの管理職はいわゆる名ばかり管理職と揶揄される人たちであり、残業はしても残業代は出ない人たちです。