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三浦展「繁華街の昔を歩く」

「いやらしく」て「かわいい」おじさんを批評する

文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表
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 フェイスブックで偶然見つけたイラストに一目惚れした。あるようでなかった雰囲気。昭和レトロでは表し尽くせない何かがある。しかも作者の吉岡里奈さんは女性。これは興味津々。さっそくインタビューを申し込んだ。

偶然描いたポスターで昭和路線に目覚めて

――いつから、どうしてこういう絵を描くようになったのですか。

吉岡里奈さん(以下、吉岡) 美大の学生時代は違うタイプの絵を描いていたのですが、卒業してから別の専門学校に通っていたとき、目黒雅叙園の昭和っぽいイベントのポスターを友人から頼まれて描いたんです。これがとても評判がよくて、自分でもなんだかしっくりきたんですね。以来、こういう絵をずっと描いています。

――絵のモチーフはどこから着想しますか? 僕は昔の大映映画をよく見るのですが、そうした映画のワンシーンのような構図があると思いましたが。

吉岡 あまり意識していませんが、確かに私は子ども時代からその時代の映画を見るのが好きで、ポスターも本を通じてたくさん見ていました。雅叙園のときは、1960年代あたりの日本映画のポスターなどの資料をたくさん見て、ポスターを描いたんです。あとは、昔公衆電話ボックスにたくさん貼られていたピンクチラシとか、エロ雑誌とかをモチーフにします。

どうしようもない人間の業を描きたい

――出身はどこですか?

吉岡 川崎の南武線の武蔵小杉の向こうです。子どもの頃、街の中にまだピンク映画館がありました。

――へえ、まだあったんだ。

吉岡 そこを母と通ると、母が足早になりました(笑い)。

――やはりそのへんに今の画風への影響があるのかな。

吉岡 自分ではまったく意識しませんが、深層心理的にはそうかもしれません。

――じゃあ、武蔵小杉とかのタワーマンションとかどう思います?

吉岡 ああ、だめです。タワーマンションは住んでる人の虚栄心みたいなところにちょっと興味がありますけど。

――逆にどういう場所が好きですか?

吉岡 あまり人がいない都会ですね。

――そりゃ難しいな。それに画風と違いすぎる(笑い)。じゃあ、絵を描くとき、どんなふうに描きたいと思っているんですか?

吉岡 ねちっこさというか、情念というか、どうしようもない人間の業みたいなものを表現したいですね。かつそれを暗くならずに、ポップに描きたい。

――落語みたいですね。

吉岡 そうそう。どうしようもない人間を明るく。

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おじさんを皮肉に見ている

――けっこうフェミニズム的な本も読むとか。

吉岡 はい。上野千鶴子さんの『発情装置』とか。私が学生の頃は、女性が女性をどう表現するかといったことがアートでかなりテーマになった時代なんですね。映画もそうですし、写真ではヒロミックスとか、長島有里枝とか、ガールズ写真が出てきた時代で。私もほぼ同世代なんで、そのへんは意識せざるを得なかったです。

――なるほど。一見、おじさんの、それこそどうしようもない欲望というか、業を描いていて、おじさん好みの絵のように見えますが、実はおじさんを批評しているとか。

吉岡 そうです。私はマッチョが嫌いでして、DVとか、男らしさや父権を誇る人が生理的にだめなんです。

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――でも誤解されるでしょ?

吉岡 そうですね。でも本当は、私の絵ではおじさんを意地悪に描いていて、女性のほうが優位に立っているように描いているのです。

――言われると気づくんだよね。おじさんは、ひたすら“いやらしい”というか、“かっこ悪い”し。

吉岡 そういうおじさんをかわいいと思う面もあるんです。愛憎半ばで。皮肉な目で描いている。ピンクチラシでも普通のエロ写真でも男性目線で表現されていますが、そうではない、女性の目線で描くとどうなるかということです。だから女性を強い存在として描いている。

――なるほど。だからか。あなたの描く女性はとても美しくて、官能的というか、やや太めで、つややかで、インドや南米の女性みたいに自然の生命力がありますものね。単なる商品化されたエロではない、本当のエロスです。

吉岡 そうですか。自分ではあまり意識していませんが。

――個展では女性客も多いそうですが、女性は何を求めて来ているのでしょうか?

吉岡 やっぱり私の意図に気づいている人が増えていると思いますね。

――じゃあ、テレビゲーム、デジタルアートはどう思うのですか。

吉岡 いずれも好きではありませんね。目が大きくて胸がでかいアニメとか、全然だめです。今のグラビア写真も嫌ですね。まったく女性が人形というか、性の対象として人工的に作られたもののように見える。昭和のエロは、確かに男性目線でつくられているけど、生の人間としての女性がいる。

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現代の「カーマスートラ」ですね

――ところで、影響を受けたアーティストは?

吉岡 横尾忠則さんを尊敬しています。横尾さんの高倉健のポスターとか好きで、かっこいい! と初めて思った作品ですね。他の俳優を描いたものが横尾さんにありますが、そういうのも好きです。それから都築響一さんですね、やっぱり。彼の『TOKYO STYLE』を見たときは、こんなに普通の部屋を撮影しているだけなのに、おもしろいのか! って驚きましたし。

――あなたの絵の雰囲気は、横尾さんの高倉健というより、お釈迦様とかを描いたインド、曼荼羅っぽい絵のほうが似ていませんか。なまめかしくて肉感的なところが。僕はロックのサンタナのファンで、『ロータスの伝説』が愛聴盤なんですが、横尾さんが手がけたそのLPのジャケットを思い出します。

吉岡 そういえば今の画風になる前からインドの宗教画が好きでした。それつながりでインドカレーも大好きです(笑い)。

――あ、やっぱり。みうらじゅんとも通じる気がします。みうらさんも横尾さんの影響があると思うし。インド風なところもある。サンタナのジャケットみたいなポスターもある。

吉岡 確かに! みうらさんもピンクチラシを集めてますから、私と通じます。それに横尾さんはY字路とか滝が好きだったり、UFOにはまったり、マイブームの元祖みたいなところがありますね。

――宗教的ですね。いや、そういう意味では、あなたもちょっと宗教的です。あなたが描いているのは現代日本の「カーマスートラ」だと思いますよ。
(文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表)

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三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表

三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表

82年 一橋大学社会学部卒業。(株)パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。
86年 同誌編集長。
90年 三菱総合研究所入社。
99年 「カルチャースタディーズ研究所」設立。
消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案している。
著書に、80万部のベストセラー『下流社会』のほか、主著として『第四の消費』『家族と幸福の戦後史』『ファスト風土化する日本』がある。
その他、近著として『データでわかる2030年の日本』『日本人はこれから何を買うのか?』『東京は郊外から消えていく!』『富裕層の財布』『日本の地価が3分の1になる!』『東京郊外の生存競争が始まった』『中高年シングルが日本を動かす』など多数。
カルチャースタディーズ研究所

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