『医者が教える食事術 最強の教科書 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』(ダイヤモンド社)が話題になっています。発売8カ月で53万部を超えるベストセラーになっており、内容についてテレビ番組などでも取り上げられています。著者は糖尿病を専門とする牧田善二医師で、この本のほかにも糖質制限関連の本を多数執筆しておられます。
この本の内容が、バラエティ番組『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系)で「医者が教える正しい食事術 第2弾」と題して6月22日に放送されました。
いくつか紹介された意外な食事術のなかで、タレントの早見優さんがつくったツナパスタでの油漬けツナ缶の使い方が間違っていると指摘されていました。
早見さんは、これまで太るのを気にしてカロリーの高いツナ缶の油を捨てていたのですが、それが間違いだというのです。番組内で指摘されたのは、以下の点です。
・原料のビンチョウマグロは青魚なのでDHA.EPAが多く、そのDHA.EPAがツナ缶の油に溶け込んでいるので捨てるのはもったいない
・むしろその油を使って調理したほうが良い
・そもそも油では太らない
その解説として、牧田医師は「油漬けツナ缶の食事術」を以下のように提唱しています。
・太る原因はカロリーではなく、血糖値の急上昇である。
・糖質(炭水化物)の多量摂取で急上昇した血糖値は急激に下げなければならないが、そのときのインスリンの働きが摂取した糖質が多いとエネルギーとして消費するだけでは間に合わず、余った糖質が脂肪として蓄えられることが、人が太る唯一の原因である。
・つまり、肉の脂身や植物油などの脂肪はカロリーが多くても肥満とは関係がないので、ツナ缶の油も捨てる必要はない。
・ましてやツナ缶の油にはDHA、EPAなどの体に良い成分が含まれているので、余計に捨てるのはもったいない。
この説が意外だったようで、司会の中居正広さんをはじめ、スタジオでは驚きの声が上がっていました。
ツナ缶の油使用は「最悪の食事術」
しかし、この油の使い方は間違っています。糖質と肥満の関係は別にしても、ツナ缶の油は捨てるべきなのです。
まず基本的な間違いは、ツナ缶にDHA、EPAは少ないということ。最近、DHA、EPAの健康効果やダイエット効果が注目され、DHA、EPAが豊富なサバ缶やイワシ缶が人気ですが、ツナ缶のDHA、EPA量はかなり微量で、ほとんどないと言っても過言ではありません。
そもそも、ツナ缶の原料となるビンチョウマグロ(ビンナガ)やメバチマグロ、キハダマグロなどは、DHA、EPAが少ない魚です。ツナ缶は最初の製造過程でその魚を煮るのですが、そのときに魚から出たDHA、EPAなどが溶け込んだ煮汁は捨ててしまうので、さらに少なくなります。そして、茹で上がった魚に野菜などからつくった調味液と植物油を充填したのが油漬けツナ缶なのです。
番組では、この油に原料の魚からのDHA、EPAが溶け込んでいると説明していましたが、このような製造工程から、あり得ないのです。実際、文部科学省の食品成分データベースで調べても、ツナ缶(マグロ類/油漬け)可食部100gのうち、多いものでもDHAは0.15g、EPAは0.077gと、ごくわずかな量しか含まれていません。
次の間違いは、油漬けのツナ缶に使われる植物油の安全性です。ツナ缶に充填される油は、大豆油や綿実油などが多く、それらの主成分はリノール酸で、過剰摂取の害が指摘されている油です。ツナ缶100g当たりに、リノール酸は11gも含まれています。つまり、体に良いDHA、EPAはほとんどないうえ、摂取を控えるべきリノール酸が多いのが油漬けツナ缶なのです。やはりツナ缶の油は捨てるべきなのです。
糖質制限を推奨する人々の多くは、肉や油などの脂肪酸摂取の量にはこだわる必要がなく、糖質を減らす分、タンパク質と肉類や炒め物、揚げ物など脂肪分豊富な食事でおなかを満たすことを勧めています。しかし、肉類や炒め物、揚げ物に使われるサラダ油やツナ缶の大豆油、綿実油に豊富に含まれるリノール酸の過剰摂取は、アレルギーや動脈硬化、糖尿病、脂質異常症などの原因になると報告されています。
糖質制限そのものの賛否はともかく、糖質の代わりに脂肪酸の質(成分)を問わずに多量に摂取すると、かえって健康を損ねることになりかねません。そうなっては本末転倒です。
(文=林裕之/植物油研究家、林葉子/知食料理研究家)