生活習慣病のひとつでもある高血圧症。年々患者数は増加しており、3年ごとに厚生労働省が実施している「患者調査」では、最新の平成26年調査で1,010万8,000人もの方が継続的な高血圧症治療を受けていると推測されています。糖尿病、脂質異常症、虫歯といったさまざまな病気があるなか、高血圧症で医療機関に通っている方は、男女とも1位という驚きの結果が出ています。もはや高血圧症は国民病ともいわれています。
高血圧予防といえば「減塩」と思いつく方も多くいらっしゃると思いますが、実は塩を減らすだけでは日本人には有効な策とは言えなさそうなのです。
今回は高血圧と塩分について解説いたします。
塩分が多いと何か悪い?
食塩は旨みのひとつですが、摂り過ぎが血圧を上げてしまうことが問題となります。逆に塩分摂取を減らすことで血圧が下がることは、多くの研究でわかっています。
血圧を下げるためには、食塩摂取量を少なくとも1日6gくらいまでに抑えることが必要とされています。そして、塩分摂取は血圧だけでなく、他の臓器へ害をもたらすこともわかっています。例としては、過剰な塩分を排泄させるために腎臓が酷使され腎疾患を患ったり、過剰な塩分によって心臓へ送る電気信号(筋肉の伸縮信号)が正常でなくなり、不整脈や心疾患を患ったりするリスクも高めます。
日本人は何から塩分を摂っている?
塩分の摂り過ぎといわれますが、「塩はめったに使わない」という方も要注意。塩の代わりに使うソースやケチャップ、マヨネーズにも塩分は入っています。
そもそも、日本人は塩そのものよりも、しょう油、味噌といった調味料から、より多くの塩分を摂取している方が多くいます。そのほか、鶏ガラスープ、コンソメといった調味料も塩分が多いので注意したいですね。
また、加工品にも注意。忙しいときや飲んだ後に食べるカップ麺。汁まで飲めば1杯で5.5gもの塩分摂取になり、それだけで1日の塩分摂取量の半分以上を摂ってしまいます。
体に必要な塩分
では、どれくらい塩分を摂ったらよいのでしょうか。
私たち日本人は1日平均して約10gの塩分を摂っていますが、生きていくために必要な塩分量はその10分の1の1gほどともいわれています。しかし1日1gの塩分量に制限した場合、味気ない食事になってしまう恐れがあります。食は人間の3大欲のひとつでもあり、それが欠けてしまうことがストレスになることもあります。
また、塩分は嫌われがちですが、寒いときに塩分は体温を高めてくれたり、体内のミネラルバランスを整えたり、体内の電気信号を正常にしたりといった役割があります。極端に控えるとめまいやふらつきが起こったり、食欲減退や脱力感、脱水症状や足がつりやすくなったりといったことが起こります。
さらに、まさに今の暑い時期では、たくさん汗をかいた後にたくさんの真水を飲むことで、体内で塩分不足となり、神経伝達が正常に働かず、意識障害が起こってしまうことさえ起きてしまいますので、やはり適度な塩分は必要です。
美味しく効率よく減塩するためには
日本食の良いところは諸外国に比べ、素材の風味を生かした料理が多いこと。お刺身や生野菜、果物など、素材をそのまま食べられるものも数多くあります。お刺身もオリーブオイルやレモン果汁を付けたり、シソ、ショウガ、ミョウガなどを巻いて食べたりすることで、塩分がなくても美味しく食べられます。ポン酢は塩分量が0なので、積極的に使ってほしい調味料ですが、味付けポン酢は塩分を含んでいるので要注意。また、しょう油も濃口しょう油よりも薄口しょう油のほうが塩分量が多いので、気を付けたいですね。
減塩は日本人にとって長年の課題でもあります。特に年を重ねると塩味を感じにくくなる傾向にあります。早いうちから薄味に慣れたり、塩の代わりの風味を生かした料理を楽しんだりするとよいですね。
(文=望月理恵子/健康検定協会理事長、管理栄養士)