これまで、22本のコラムを連ね人生後半の食をとおした健康づくりの基本となる情報を提供してきた。巷で跋扈する個別の病気をターゲットにした手立てとは趣を異にする要素が、かなりあることに気づいていただけたのではないかと思う。
老化の進む速さが反映された健康の総合指標である寿命(0歳余命)は、国・地域によって大きな差がある。寿命が文化風土、気候、あるいは経済状況などの影響を大きく受けるからだ。とはいうものの、保健科学の進展によりわれわれが長命を実現できるチャンスは格段に増えたといえる。有用な情報を得て実践しさえすれば、かなりの効果が期待できる時代になってきた。要はその有用な情報をどのようにして入手すればいいか。そこが問題である。
有用な手立てというのは、実際に試してみて多くの人たちができることなのか(実行可能性)、本当に有効なのか(有効性)、思わぬ副作用はないか(副次的作用)、この3要素をチェック・検証してできあがるものである。ちょうど治療薬の治験に相当する手続きである。
ところが、この要素がしっかりチェックされた健康づくりのための手段は極めて少ない。インターネットのみならず多種多様なメディアは、人々の大きな関心を引くことができるため「長寿の秘訣」をよく扱う。その多くは“このような生活習慣”をもつ人が長命で、“あのような生活習慣”をもつ人が短命、などという単なる観察比較でみえた有益な生活習慣を「長寿の秘訣」に短絡させ結論づける。
生態学的研究である短命な地域と長命の地域の生活習慣などの比較は、さらに説明力が弱い。長命の人たちに多い特徴的な生活習慣を実践すると、老化が遅く進み長命になるのか? 短命の人たちに共通した生活習慣を除去改善すると、長命になるのか? 試し検証しているわけではない。この類の「長寿の秘訣」情報は、今話題のフェイクニュースに等しい。
最近はビッグデータやAI(人工知能)がブームである。数千、数万の学際的情報をかき集め、多変量解析を施し、長寿の秘訣を導き出そうとする取り組みもみられるようになった。身体変数など医学、健康科学関連の変数だけでなく、思想信条なども含めた多領域の変数を網羅し分析するため納得させる新しい知見が発表されるかもしれない。