原則的には、効果のある薬は保険適用されて幅広く使われるべきと判断され、効果のない薬については、必要性が低いと見なされ、場合によっては保険適用外となる可能性もあります。日本において、当初は、一部の医薬品価格の上げ下げが行われるにとどまります。ですが、英国などでは保険適用を外すような動きにまで踏み込んでいます。医療行為の価値に目が注がれ、ムダな医療への関心は従来よりも高まることになります。
個別の病院や医師に関わる変化も生まれています。一つは、4月以降本格化している「働き方改革」です。かねて日本の医療機関は医師不足が深刻でした。その背景にあるのは、病院数の多さと医師の少なさです。OECDのデータによると2017年、人口1000人当たりの医師数は日本は36カ国中の28位。一方で、人口1000人当たりの病院数は韓国に次いで35カ国中の2位。病院ベッド数は40カ国中の1位。病院1施設当たりの医師の数はどうしても低水準にならざるを得ません。
過剰なベッドに、少ないスタッフ。しかも、スタッフは働き過ぎ。今後は働き過ぎの部分が是正され、これまでのような医療サービスを提供することは難しくなります。4月に働き方改革関連法が施行され、医師にも2024年から適用されます。適用まで時間はありますが、医療現場も準備に着手することになります。医療の現場でも、人的資源活用の観点からムダが再点検されていくでしょう。
もう一つは、10月の消費増税です。患者が払う医療費に消費税はかかりませんが、医療機器や医薬品の購入には消費税がかかり、医療機関の経営は圧迫されます。医療機関はムダにより敏感になると考えられますが、医療機関が提供する医療サービスにはムダがむしろ増える恐れもあります。
このほかにも政府の掲げる地域医療構想の下、2025年に向けて日本の医療提供体制は大きく変わっていきます。さまざまな動きが関係して、医療のムダへの注目はより高まってくると考えています。
良かれと思った医療に潜む「落とし穴」
こうした時勢に、米国発の「チュージング・ワイズリー」が国際的にも広がりつつあり、たとえばオーストラリアなどは本腰を入れ始めています。チュージング・ワイズリーにはざっと550項目のムダと考えられる医療が列挙されています。がん、高齢者、子供、妊婦、心臓循環、腎臓、胃腸、脳神経、精神、骨や筋肉、血液など、カバーする領域は多岐にわたる、まさに驚異的なリストです。