本書においては、最新のおよそ300項目を整理し、99節にわたってまとめています。14年に『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BP社)を刊行したときには250項目程度でしたので、大幅に項目が増えました。「ムダな医療」と言われてもなかなかイメージしづらいですが、それが目で見えるようになるので、具体的な行動を取りやすくなる点は重要です。
「チュージング・ワイズリー」には、次のような項目が見られます。
「定期的に行う検査は慎重に決める」
「入院中の寝たきりや座りっぱなしは禁物」
「妊婦に安易に安静を勧めない」
「古くなったというだけで、歯の詰め物を替えない」
「膝の痛みには手術以外の方法でまず対処する」
「耳や鼻のトラブルは問診や身体検査から十分に判断できる」
「平均寿命マイナス5歳を超えた年齢からはマンモグラフィー不要」
「乳がんの治療で避けるべき医療行為」
「子宮頸がんの治療は絞り込む」
「子宮内膜がんの子宮全摘後の放射線は勧められないこともある」
「甲状腺にはしこりが見つかるが、がんでないことが多い」
「早期がん発見を目的にした検診はやめる」
「病気を防ぐマルチビタミン、ビタミンE、βカロテンはやめる」
「高齢者を認知症と決めつけない」
「十分な強度のトレーニングを行う」
「子供にCTやMRIをやらない」
「子供への安易な薬の使用は禁物」
「出産後の母子を無理に引き離さない」
「5つ以上薬を使っている人にさらに薬を使わない」
「外反母趾や足底筋膜炎で安易に手術しない」
「皮膚の診断や治療にも無駄あり」
「末梢神経に異常があるだけでCTやMRIをしない」
「目覚める必要がないなら無理に起こさない」
「胃腸で必要性を疑うべき検査とは」
これから日本においても医療行為の効果に関心が集まり、過剰な医療は減らして、余計な費用は削り、入院は減らすような動きが強まるわけです。良かれと思って行う医療に、落とし穴が潜んでいるというのが怖いところです。医学会が自らそれを指摘しており、信頼性の高さもあり、米国中に広がることになったのです。
私は渡米して現地での無駄な医療をめぐる状況の変化についても取材をしてきました。チュージング・ワイズリーを始めた当事者にも会いました。14年に最初の書籍で問うたときは、日本では医療機関のムダへの意識は今ほど高まっていませんでした。むしろ、一般の人々の間で無駄な医療への関心が高まり始めた時期だったかもしれません。ムダな医療に関連した動きが前述のように続く今年は、チュージング・ワイズリーはより重く受け止められるようになったと思います。今年、ムダな医療の書籍を再び世に問うのは、必然だと考えています。
(文=室井一辰/医療経済ジャーナリスト)
医療経済ジャーナリスト。大手出版社を皮切りに、医学専門メディアや経営メディアなどで全国の病院や診療所、営利組織、公的組織などに関する記事を執筆。米国、欧州などの医療、バイオ技術の現場を取材。2014年に『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BP)、2019年に『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(洋泉社)を刊行。本作も含め、米国で始まった「チュージング・ワイズリー」の動きを紹介し、広く注目を集める。執筆や取材協力などを『週刊ポスト』『女性セブン』『週刊現代』『週刊東洋経済』などで行う。石川県金沢市生まれ。東京大学農学部獣医学課程卒業。
著書
『続 ムダな医療』(日経BP)
『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BP)
『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(洋泉社)