私は3月に『続 ムダな医療』(日経BP社/以下、「本書」という)を上梓しました。5月、日本では元号が平成から令和へと改まりますが、今年は「ムダな医療」元年ともいえる転換点になるかもしれません。なぜなら、大きな制度変更がたて続けに予定されているからです。今回は本書の内容もひきつつ、「ムダな医療」について改めて考えてみたいと思います。
前回もお伝えしましたが、私は20年近く医療や生命科学の分野で取材活動をしてきました。獣医学を学び、情報収集の経験もあるため、身近な人から病気について相談を受けることがよくあります。
2013年、私は米国で「チュージング・ワイズリー」という、医学会が「ムダな医療」を列挙する動きを知りました。当時、その数はおよそ250項目。CT検査を行うな、特定の薬は使うな、などの内容です。なぜ米国では、こんな有用な情報、しかも米国の医学会にとって自分の首を絞めるような情報が公開されているのか疑問に思い、その実態を追ってきました。
医療のムダは3パターンに分けて考えられます。1番目は、デメリットがメリットを上回るような医療行為。たとえばCT検査では、検査によって得られる情報の価値よりも、放射線被ばくによる発がんリスク上昇のほうが問題視される場合があります。2番目は、メリットがそもそもないケース。細菌にしか効かない抗菌薬を、ウイルス感染の治療に使うようなケースです。3番目は、デメリットが大きすぎる場合で、医療行為の効果がないのに副作用が大きいケースです。
「医療技術評価」は一つの転機
ムダな医療の視点から見ると、転機になりそうな動きがいくつかあります。直接的に影響するかは未知数ですが、注目したいと考えています。
4月11日付日本経済新聞朝刊の社説にも紹介されていましたが、4月から日本で「医療技術評価(HTA)」と呼ばれる、主に医薬品の費用対効果を評価する制度が本格的に始まりました。医療技術評価は世界的にも重要視されるようになっています。例えば、これまでは医薬品は発売後、その効果が厳しく評価されていませんでした。医薬品が本当に命を延ばしたのか、病気を治したのかが今後は評価を受けることになります。