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『ムカつくことには合理性がある~若き老害・常見陽平が吠える』(12月21日)

バカで屈辱的な宴会芸は、最高の新人教育である やりすぎると怒られ、真面目だとスベる

文=常見陽平/評論家、コラムニスト、MC

宴会芸と私

「マルクスもケインズも吹っ飛んだ」

 これは、漫画『課長島耕作』(弘兼憲史/講談社)内で島耕作の上司、中沢部長(のちに取締役→社長→相談役)が発した名セリフである。大学院卒の中沢が大手電機メーカーである初芝に入社した時に待っていたのは、宴会芸の洗礼だった。家電ショップにおさめるノベルティのカレンダーに不具合があったことを詫びるために、中沢と島は新年会を訪問。そこで、中沢は自ら裸踊りを披露したのだった。宴が終わった後で入社当時のことを振り返りつつ、島にこう語るのである。

 私は激しく後悔した。この漫画を学生時代に読まなかったことに。そう、この漫画を読み始めたのは、社会人3年目の頃だったのだ。自宅近くの漫画喫茶に通い、課長編を全巻読んだのだった。すでにこの漫画に描かれていたような宴会芸の洗礼を、私は受けていたのだった。

 私は15年間のサラリーマン生活で、残業、休日出勤、接待、宴会芸、希望外の異動、出向、転勤、過労・メンヘルなどサラリーマンらしいことをひと通り経験した。真性「社畜」経験の持ち主だ。学生時代、「会社に入っても、これだけはしたくない」と思っていた嫌なことを、ひと通り経験した。

 20代の頃、会社で、そして先輩や友人の結婚式などで宴会芸をやりまくっていた。実に屈辱的な体験をたくさんしたものだ。Tバック一丁でカラオケボックスに入り、先輩が飛ばす大量の吹き矢に撃たれる「少年ケニア」という芸、江頭2:50の真似、映画『マトリクス』の真似、プロレス実演、パンツ一丁で全身にポケベルを付け一斉に鳴らす『バイブマン』という芸などなど、思えば下品な芸をたくさんしたものだった。

 下品な芸だけではない。下品なゲームを仕切らされたこともあった。印象に残っているのは、先輩の結婚式2次会でやった「淫語DEビンゴ」というゲームだ。参加者全員に官能小説のページを破ったものを配り、新婦が淫語を読み上げ、ページ両面に5つ以上あったらビンゴというゲームだ。これをやりたいと言い出したのは新郎新婦だが、仕切っていてやや虚しくなった。

 今はコンプライアンスにうるさい時代なので問題になりそうだが、こんな宴会芸をやって私は育った。まさに、マルクスもケインズも吹っ飛ぶ日々だった。

●宴会芸は人を育てる

 しかし、私はすっかり会社の論理に染まり、いつしか宴会芸が大好きな人材になってしまった。宴会芸の準備が楽しみでしょうがなくなったのだった。いつしか、宴会芸を率先して行うようになったり、宴会を仕切るようになった。

常見陽平/千葉商科大学准教授、働き方評論家

常見陽平/千葉商科大学准教授、働き方評論家

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)後、株式会社リクルートに入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年より准教授。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。主な著書に『「就活」と日本社会』(NHK出版)や『「意識高い系」という病』などがある。
常見陽平公式サイト

Twitter:@yoheitsunemi

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