PayPayやLINEPayなどスマホ決済サービス普及を阻む“最後の障害”
次に、おサイフケータイを中心としたスマホを使った決済について見ていきます。日本銀行が2016年に行った調査によると、スマホなどのモバイル機器を使った決済を利用したことがある人は、6%しかいないという調査結果が出ています。そしてその理由として、セキュリティ・紛失などの安全性に不安があると答えた人が50%にも上っています。
つまり、決済手段としてみた場合、電子マネー、クレジットカード、デビットカードも加えたカード決済が圧倒的に多いことになります。既述の日本銀行の調べでは、個人消費(民間最終消費支出)の約2割がこれらの手段で決済されているとのことです。
カード決済型の電子マネーが普及してきた背景には、その利便性の高さが挙げられます。面倒なセッティングをしなくてもカードを出すだけで使用でき、万一、紛失した場合にもカード残高だけの被害で済みます。これに対して、現金決済の場合、お財布から現金を出して、消費税も加味した1円単位の計算と貨幣の準備をして、お釣りも1円単位でもらうという不便さが、消費者のカード決済へのスイッチングコストを下げることになったと考えられます。
この流れだと、カード型電子マネーでキャッシュレス化は決まりと思いがちですが、一つ、障壁となりそうなのが、利用できる店舗数がすでに限界にきている可能性があるということです。交通系ICカードの利用店舗数は既述の通り約55万店ですが、総務省統計局の経済センサスによると、全国には小売店と飲食店を合わせて170万店弱の店舗があり、そのうち、小規模な店舗が100万店といわれています。
こういった小規模店舗は、規模が小さくなるにつれて、ICカードの決済端末を利用した際に支払う3~5%といわれる手数料が払えない可能性が高くなるのです。東京商工リサーチのデータベースによると、売上高5億円未満の小売店における売上高営業利益率はマイナス0.85%、黒字企業だけに絞っても1.8%というデータが出ています。一方、飲食店についても、売上高営業利益率が1.5%しかないというデータが出ています。
つまり、カード決済の手数料を払うと赤字になってしまうということです。自分たちが生み出す利益が2%にも満たないのに、手数料に3~5%は払えないという理屈です。国が手数料の一部を補助する制度も用意しているようですが、全額を負担するわけではないので、利益の大部分を手数料に支払うという構図は変わりません。この論理でいくと、カード型電子マネーの利用店舗数の大幅な拡大は難しく、使えないお店がほとんどなくなるという利便性の向上は期待できないことになります。