ことの発端は4月24日に行われた、消費者庁の福嶋浩彦長官の定例記者会見だった。読売新聞記者がソーシャルゲームの金銭被害について質問すると、長官は「この問題は、消費者庁としても注目をして、動きを注意深く見ています」と話し、業者が自主的な取り組みを始めており、同庁としても協力するところは協力すると述べた。
これを受け4月26日、任天堂は決算説明会に際し、公式ホームページに次の一文を掲載した。
「構造的に射幸心(まぐれ当たりによる利益を願う気持ち)を煽り、高額課金を誘発するガチャ課金型のビジネスは、仮に一時的に高い収益性が得られたとしても、お客様との関係が長続きするとは考えていないので、今後とも行うつもりはまったくない」
同日、スクウェア・エニックスも8月に発売する『ドラゴンクエスト10』について、「景品くじ方式の追加課金(いわゆる「ガチャ課金」)の予定はございません」と発表した。
当局よりも先にゲーム業界の”旧勢力”から、ガチャ課金の否定・批判が噴き出し、ゲームユーザはおおむね好意的に受け止めた。
ゴールデンウィークたけなわの5月5日、消費者庁は「まだ結論を出していない段階」(福嶋長官)だったにもかかわらず、読売新聞朝刊は「コンプガチャは景品表示法で禁じる懸賞に当たり違法」「消費者庁が中止を要請へ」と突然報じた。マスコミ各社がその後を追い、消費者庁は報道内容を否定するなど対応に追われた。連休明け7日の東京市場ではDeNA株、グリー株はストップ安の大暴落。同じくソーシャルゲーム関連のKLab株、旧勢力の中でコンプガチャ導入に積極的だったコナミ株も大きく下げた。
そして5月9日、DeNA、グリーは相次いで「コンプガチャを廃止する」と発表。関連各社もみな追随した。消費者庁が動く前に自主規制で業界への批判をかわそうという狙いだが、5月5日の報道自体がフライング気味だっただけに、過剰反応で「ひょうたんから駒」が飛び出した観もあった。
ガチャ課金まで禁止されたら息の根が止まる
両社は、決算発表に合わせて「コンプガチャ廃止宣言」を行いながら、翌年度の業績見通しは明らかにしなかった。そのあたりの事情について、ゲーム業界に詳しいジャーナリストはこう話す。
「コンプガチャ廃止はソーシャルゲームへの批判を終わらせて、ガチャ課金全体を守る狙いがあると思います。ガチャ課金まで禁止されたら、息の根が止まりますからね。とは言っても、今後への影響は測りかねているのではないでしょうか」
収益モデルの「アイテム課金<ガチャ課金<コンプガチャ」のうち、自主規制で最上位の1つが失われた。さらに2つ目も奪われて、収益源がふつうのアイテム課金だけになったら赤字は必至。ソーシャルゲーム各社も大きくなり過ぎたゆえに、ガチャ課金がなくなれば立ちゆかない収益構造になっているのだという。
さらにいえば、「バブル崩壊」にとどまらず、ユーザのソーシャルゲーム離れが業績悪化に拍車をかけ、縮小均衡で生き残りを図るしかなくなる可能性もある。
ガチャ課金は「射幸心」に訴え、コンプガチャは「のめり込んだユーザー」に支えられてきた。後者の”中毒患者”が消えても影響は限定的だが、前者の射幸心が当局の規制や自主規制で満足させられなくなると、事態はより深刻になりかねない。ガチャ課金があるから何が得られるかわからない面白さがあり、たまに得をするからまたやりたくなるというユーザがいるからだ。射幸心は、あおりすぎると当局ににらまれるが、抑えると客離れを起こすデリケートなものである。
ギャンブル性低下で市場縮小したパチンコ業界
その板ばさみに苦しんだ末、最近5年間で市場が3分の2に縮小した娯楽がある。パチンコ・パチスロ業界である。
「レジャー白書2011」(日本生産性本部)によると、パチンコ業界(パチスロ含む)の売上規模は05年は28.7兆円だったが、10年は19.4兆円にまで縮小した。利用人口は1710万人から1670万人へ40万人減っただけなので、既存の利用者1人がパチンコ・パチスロに足を運ぶ回数が約3分の2に減ったことになる。そこまで魅力が失われたのは、04年の出玉規制強化(いわゆる「パチスロ5号機規制」)と、06年の改正風営法による景品交換規制で、射幸心が抑えられたのが影響している。