今年4月、全国の主要家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」で、ある異変が起きた。タブレットPC端末の実売台数ランキングでアップルのiPadを抑えて、中国ファーウェイのAndroid搭載タブレットPCが1位を獲得したのである。
MM総研が発表した昨年の国内メーカー別タブレットPC端末出荷台数シェアによれば、1位は53.2%のアップルで、2010年の調査から10年連続で1位をキープしているという。すなわち、日本国内のタブレットPC端末市場は、iPadの圧勝状態にあるのだ。
そのため、ファーウェイ製のタブレットPCが4月6日~12日、および4月13日~19日の日次集計データに基づいた実売台数ランキングで1位を記録したことは、大きな驚きをもって迎えられた。
この結果についてBCNは、新型コロナウイルス感染拡大に伴うタブレットPC需要急増によって生じたiPadの品薄や、iPadに割高感を抱いたユーザーがAndroidタブレットに流入したことによるものだと分析しており、ファーウェイがアップルの牙城を崩すのではないかとも見ている。
だが、果たして本当にAndroidタブレットに追い風が吹いてきているのだろうか。IT機器やガジェットに詳しいビジネス書作家の戸田覚氏に話を聞いたところ、追い風どころか、逆にAndroidタブレットを取り巻く厳しい現状が見えてきた。
Androidタブレットの凋落、その理由は?
戸田氏によると、iPadの品薄や価格の高さがAndroidタブレットの販売台数増加の背景にあるという分析は間違っていないが、これはBCNランキングにデータを提供している24社の店舗に限られた現象だという。
「BCNランキングには、オンラインショップや携帯電話ショップ、アップルストアや小規模の店舗での販売台数は数字に入っていません。中古でもiPadが多く販売されていますが、これも当然ランキングに含まれてはいません。そのため、Androidタブレットが販売台数を伸ばしているのはあくまで、対象となっている一部の大手家電量販店特有の現象と見るべきです。
また、今はインターネット上でタブレットPCを購入する方が増加しているため、実際に世の中で購入されているタブレットPCの販売台数の中でも、BCNランキングの集計対象となっている店舗の割合は年々減ってきていると思われます」(戸田氏)
さらに、戸田氏によると、Androidタブレットは今、非常に厳しい状況にあるという。
「かつてはASUS(エイスース)や富士通といった企業が日本でも頻繁にAndroidタブレットの新製品を出していたのですが、最近は数が減少しており、やがてファーウェイだけが新製品を発売するという状況になりました。
しかし、そのファーウェイもアメリカ政府の同社製品を排除しようとする動きの影響によって、昨年から日本国内で新製品を出さなくなってしまいました。そのため、現在はAndroid 10などの最新OSを搭載したAndroidタブレットはほとんど存在せず、旧来のモデルが低価格で新しく発売されているというのが実情です。
最新モデルが発売されなくなったことで、iPadと性能で大きな差のあるAndroidタブレットは“死につつある”といっても過言ではありません」(戸田氏)
価格勝負が最後の戦場となってしまうのか
最新のOSを搭載したモデルが発売されなくなり、iPadに大きく水をあけられてしまっているAndroidタブレット。それでもBCNランキングで上位になるなど、いまだにAndroidタブレットが売れている理由は、iPadとの価格の差にあるという。
「iPadは現在、一番安い第7世代のモデルでも税抜で3万4800円という価格設定で高価です。一方、かなりの安価で支持を得ているAmazonのFire は、OSがAndroidでもiOSでもないので用途が限られ、Google マップなどのアプリが使用できないという問題があります。
そのため、1~2万円でタブレットPCを購入したいという方が、Androidタブレットを購入しているというのが現在の状況なのです。そのなかでもファーウェイ製品がBCNランキングで上位になっているのは、最後に発売されたモデルの値段が下がってきたためだと考えられます。
また、実際には商品に問題がなくとも、ファーウェイ製品に不安を抱く方も少なくないので、そういった方々にオススメしやすいということもあり、NEC製のタブレットPC端末が今店頭で売れているという話も聞きます」(戸田氏)
価格の差で勝負しているAndroidタブレットだが、今後アップルがさらに低価格のiPadを発売することとなれば、いよいよ後がなくなってしまうだろう。はたして、Androidタブレットに未来はあるのだろうか。
「最新のOSを搭載したモデルが発売されていないだけでなく、Androidタブレット専用のアプリケーションもあまりリリースされていません。そのため、AndroidタブレットはAndroidスマートフォン向けのアプリケーションをタブレットPCで使用している状況にあります。
私が知る範囲でも、各企業がAndroidタブレットの開発に注ぐ力は減退していっています。現状のままAndroidタブレットが死に体であれば、スマートフォンの大型化も進んでいるため、iPadの一人勝ち状態が変わることはないでしょう。
ですが、どこかの企業が素晴らしい製品を開発し、iPadを凌ぐほどの支持を得ることがないとは言い切れません。この先どうなるのか、確実なことは誰にもわかりませんから」(戸田氏)
今回のBCNランキングでの首位獲得が、Androidタブレット最後の栄光となるのか否か。今後の業界の動向が注目される。
(文=佐久間翔大/A4studio)