Grouponを追われた“非業の”メイソンCEO、という誤解…より大きな成功へ?
現在のソーシャル × モバイル化へと続くWeb2.0時代の到来をいち早く提言、IT業界のみならず、多くのビジネスパーソンの支持を集めているシリアルアントレプレナー・小川浩氏。『ソーシャルメディアマーケティング』『ネットベンチャーで生きていく君へ』などの著書もある“ヴィジョナリー”小川氏が、IT、ベンチャー、そしてビジネスの“Real”をお届けする。
2013年2月28日、Grouponの創業者でありCEOのアンドリュー・メイソンがIPO後の2期連続の業績不振を受けて失脚した。数カ月にわたり株価が下落し続け、改善の見通しも立たないことから、メイソンの責任を追及する声が高まり、ついには彼自身が辞任の発表をするに至ったのだ。
Grouponは、2008年に創業された若い企業である。彼らは創業からわずか3年強でIPOを果たすという類いまれな急成長で駆け上がった、希有のベンチャー企業だ。フラッシュマーケティングと呼ばれた、地域ごとにオンライン割引クーポンを販売し、リアル店舗への顧客誘導を果たすというビジネスモデルを生み出し、世界中に無数の模倣者を発生させたことでも知られる。いわばO2O(オンラインからオフラインに顧客を誘導すること)の先駆者であると言える。
最近はこのクーポン販売モデル自体に対する熱狂は冷めており、市場も淘汰されてきていた。だから、Grouponの不振もメイソン自身の経営能力をどうこう言う前に、ビジネスモデル自体のほころびが出ていたと言うべきかもしれないが、いずれにしても急激な成長に続く過激な失速の責任を取り、メイソンはCEOを解任された。
実際のところ、起業家がそのまま名経営者になる、という流れは米国では少ない。僕は、スタートアップを「短期間での成長を遺伝子に組み込まれた企業」と定義づけるが、スタートアップが一気に拡大し成長するには、既存の社会的骨組みを解体し、コンペティターや既得権益の享受者が高く積み上げている壁を、乗り越えるか破壊するしかない。
いわば革命を起こすのに等しい。
つまり、起業して大きな成功を収める人物に求められる資質は、革命家のそれに近しいものがある。歴史上多くの革命家が存在するが、革命の成就後にも引き続き自分がつくり上げた新体制の頂点に立ち続けることができた者は、ほとんどいない。積み上がった壁を破壊することに、ほぼすべてのエネルギーを使ってしまい、その後に安定した基盤をつくって新しい仕組みを構築していく作業にまでたどりつけないのだ。革命を成し遂げたあとで、なおかつその後の善政にまで心を配れる能力があった人物は、まれである。
●なぜ創業者が会社を追われたのか?
起業家も同じことが言える。ことにシリコンバレーでは、急成長する多くのスタートアップは強力な投資グループによってバックアップされており、IPO(または戦略的なM&Aを含むイグジット)に向けて綿密な計画を立てながら進められる。逆に言えば、イグジットに達するまでは運命共同体でも、その後は離れていくことが多い。
Grouponのメイソンは優れた起業家であり、多くの支持者を集めてIPOを果たしたが、投資家たちが利益確定して離れた後は、経営能力の未熟さを露呈してしまった。その結果、IPO後に集まった新たな投資家たちからの支持は得られず、自分がつくった会社を追われることになった。
とはいえ、メイソンはIPOを経て大きな財産を得たし、そもそも持続性ある経営者として長くCEOの座に就いていたかったのかさえわからない。つまり起業家としての才覚についてはすでに証明したわけで、次にまたメイソンが新しいスタートアップを起こそうと考えれば、シードマネーは自分で出せるし、Grouponの時よりもいい条件で追加の資金を集めることもできるだろう。
Appleを追われたスティーブ・ジョブズはNeXTを立ち上げ、Pixarという金脈も得た。シリコングラフィックスを追われたジム・クラークは、ネットスケープを立ち上げIPOを大成功させている。
多くのマスメディアは、メイソンに対して哀憐の視線を浴びせるが、非業の死を遂げる革命家とは違って、一度成功した起業家は自分の会社を追われたとしても、自分自身の手で革命の第二章の幕を上げることができる。
チェ・ゲバラはキューバ革命を成功させた後のカストロ政権では居場所をなくして、コンゴ動乱に身を投じることで政治ではなく革命を持続させようとした。しかし、メイソンにとっての“今後”は同じシリコンバレーでの新しい起業か、それとも他の起業家への支援者として投資をする側に回るか、どちらでも選ぶことが可能な立場にある。
つまり、革命は持続する。メイソン自身にその気がありさえすれば。
(文=小川浩/シリアルアントレプレナー)
※文中敬称略
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