こうした独自ソーシャルの導入の背景には、スマートフォンの急速な浸透があると、この会社社長は話す。
「今時の学生は、入学時にスマホを持つのが当たり前のようになっています。親としてもパソコンとケータイを買い与えるより、スマホ1台の方が負担が少なくて済むからでしょうか。また、中高年や女性でも、すでに半分近くの人がスマホを使っているという印象がありますね」
たとえば、採用活動での利用だと、説明会の会場案内など少々容量のある文書や画像をアップしても閲覧ができるので、ケータイよりもはるかに便利なのだそうだ。しかも、学生と人事担当者とのやり取りのログやスケジュールなどのデータが手元にすべて残るため、担当の引き継ぎなども楽になる。もちろん、製品やブランドのコミュニケーションの場合でも、同じようなことが言える。
「せっかく独自のソーシャルですから、機密保持やログの蓄積なども考慮し、運用を外部へ委託しないことが重要になります。そのぶん、人的な負担は出てきますが、顧客や学生との深いコミュニケーションができるという点で、見返りもちゃんとある」(同)
まだ試行錯誤の段階なので、ノウハウがたまっていくのはこれからだ。目先の課題は、深掘りはできるがリーチが弱いソーシャルと既存メディアとの連携と使い分け、それに即時性をキャンペーンなどでどのように活かしていくか、といったあたりにある。
「これに対応する時間は勤務時間内だけなのか、リスクマネジメントの取り決めをどうしておくのかなど、実行するとなると面倒な問題も少なくはありません。しかし、掲示板やブログの歴史を見ても、ここ3年から5年ほどはスマホとソーシャルの存在感は無視できないでしょう。自ら個人的に利用している人ほど、企業のソーシャル担当者になっても使い方が上手い。炎上などの事例を肌で知っているという点が大きいように思えます。今後、独自ソーシャルも含めて考えようという企業は、思い切って使い慣れている人材に任せてみても良いのではないでしょうか」(同)
加速し始めた企業のソーシャル利用がどのような結果を生むのか、いまから興味深い。
(文=井上トシユキ/ジャーナリスト)