スマホで漫画、「読みにくさ」解消の画期的アプリが大人気…縦スクロールのみで読める!
「ダウンロードしたものの、数回使っただけで休眠しているアプリがスマートフォン(スマホ)に入ったまま」という人も少なくないはずだ。テレビCMなどでは「数百万ダウンロード突破!」と威勢のいい言葉をよく聞くが、ダウンロード数ではなく、実際にどんなアプリがどの性年代にどのくらい使われ続けているのか。
本連載では、そんな「アプリの視聴率」をモニターの利用動向から調べるサービス「App Ape」を提供しているフラーに、四半期ごとに人気アプリの実態について聞いている。
今回も、同社の事業戦略室室長の岡田雄伸氏に、2017年春(4~6月)および今夏のアプリの動向について聞いた。
漫画の常識を覆す、スマホ漫画アプリの進化
――17年春を象徴するアプリはなんでしょうか?
岡田雄伸氏(以下、岡田) 新興の漫画アプリですね。「ピッコマ」「GANMA!」の2つがテレビCMを積極的に行い、いずれも特に10~20代の若年層の利用率が、ここ数カ月で急上昇しています。
――漫画アプリは、スマホで読むと「画面が小さくて苦手」という人は少なくないですよね。
岡田 スマホの漫画アプリは、慣れや世代によっても使用に差がありますね。
――確かに、「小中学校時代にまだスマホが流通しておらず、紙の『週刊少年ジャンプ』を読んで育った世代」と「スマホを小中学校時代から触り、小さな画面で動画を見ることにも慣れているスマホネイティブ世代」を比べれば、後者のほうがスマホで漫画を読むことに抵抗はないでしょうね。若い世代では老眼も始まっていないでしょうし。
岡田 また、漫画アプリが苦手な方は「紙媒体で大人気の漫画がスマホアプリで見られるようになって、いざスマホで見てみたものの、小さくて細かくて迫力に欠けて嫌だ、苦手だ」というケースが多いのではないでしょうか。
――私は、まさにそうです。長いセリフや細かな描写などをよく見ようとして画面を大きくしたり右に左にスクロールしたりしていると、面倒くさいし没入感が削がれて、「紙のほうが楽」と思ってしまいます。
岡田 先に述べた「ピッコマ」「GANMA!」や、同じく漫画アプリの「comico」では、そういった「見にくい」問題を解消する取り組みを行っています。それぞれのアプリではオリジナルの漫画も提供しているのですが、それらは「従来の紙の漫画にとらわれない、スマホで見ることに特化した見せ方」をしています。
スマホで見ることを前提にしているため、「ページ」の概念がなく、ひたすら縦にスクロールしていくのです。
――確かに、縦スクロールだけで読めると楽ですね。また、スマホで縦にスクロールして読む漫画は「モノローグやセリフだけで、背景が真っ白」というコマが紙の漫画よりも多用されている印象です。
紙の漫画よりは一画面が明らかに小さいですから、あまり多くの情報を一度に入れないようにしているのでしょうね。同じ表現を紙媒体で行ったら、スカスカで背景がなく手を抜いた印象になりそうですが、スマホではむしろ読みやすくなります。
岡田 従来の紙媒体での漫画の見せ方にこだわらず、スマホで一番見やすい形態で提供するという、UI(ユーザーの目に触れる箇所)/UX(ユーザーがサービスを通じて得られる体験)の観点から差別化を打ち出した点で、これらのアプリの取り組みは画期的ですね。
――前回、四半期を象徴するアプリとして名前が挙がった「DELISH KITCHEN」「kurashiru」も、すでに定番中の定番の料理レシピアプリながら「調理中の動画をアップで流す」という、考えてみればシンプルなUI/UXの改善で差別化を図っています。こう考えると、定番になったように思えるほかのアプリについても、まだ新しい見せ方はあるのでしょうね。
スマホアプリで変化する「いい漫画」の定義
今回、スマホアプリに特化して描かれた漫画を見て、「紙でおもしろい漫画はスマホで見てもおもしろい」という単純な話ではないと感じた。
まず、歴史大作など説明描写やセリフが長くなりがちな漫画は、紙で見たときはおもしろかったのに、スマホで見るとくどく感じた。背景がしっかり描かれている漫画も、紙媒体では「雰囲気づくりに手を抜かない、いい漫画」だが、これもスマホの小さな画面ではむしろ情報過多で窮屈に見えた。
それだけならまだいいが、紙媒体の漫画では「ここぞ」という見せ場で使われる「2ページぶち抜きの大ゴマ」は、スマホの漫画の場合は2画面にわたって表示されてしまうため、しらけてしまう。従来の漫画で「いい」とされていた表現がスマホでは通用しないどころか、むしろ逆効果になることもあるのだ。
スマホに特化した漫画は、意図的に空白ゴマが多用されている。これらに慣れた世代が主流になれば、「2ページぶち抜き大ゴマ」や「背景がしっかり描かれた」漫画は「古い」と読む前に一刀両断されてしまう時代が来るのかもしれない。
私は趣味で同人活動を行っているが、ウェブ媒体で漫画を表現することを前から行っていた同人界隈には「ブラウザマジック」という言葉がある。「ウェブで見ていたらおもしろいけど、紙媒体で印刷されるとつまらない漫画」という意味の悪口だ。「ブラウザマジック」は作者の力量不足のように語られがちだが、「ウェブで見るおもしろさ」と「紙で見るおもしろさ」は必ずしも一致しない。
「ブラウザマジック」は、漫画だけでなく文章の世界にもある。人気ウェブサイトのコラムが書籍化され、横書きが縦書きになった状態で読んだら「スカスカだ」と思ったことがある。何も紙が高尚というわけではなく、媒体によって表現方法や内容の向き不向きがあるということだ。
「内容がいいものをつくれば(どんな媒体でも)売れる、見られる」は、思考停止に近い。内容がいいのは当たり前で、その上でどの媒体で見られるか、ユーザーの見やすさや楽しさのために何ができるか、を考えて手を打ち続けることができるコンテンツ提供事業者が生き残っていくのだろう。
後編では、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の趨勢やリリースから1年が過ぎた「ポケモンGO」の今について、引き続き岡田氏の話をお伝えする。
(文・構成=石徹白未亜/ライター)
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