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高橋暁子「ITなんかに負けない」

過激化する10代のインスタ映え競争…SNSでの承認は、あなたの人生を豊かにしない

文=高橋暁子/ITジャーナリスト
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過激化する10代のインスタ映え競争…SNSでの承認は、あなたの人生を豊かにしないの画像1「Thinkstock」より

「承認欲求」の力は大きい。SNSを通して人が動かされる原動力となっているのは、「承認欲求」であることが多いのだ。

 人間の欲求を五段階で表現した「マズローの五段階欲求」をご存じだろうか。第一階層目は「生理的欲求」(食事や睡眠などの本能的欲求)。第二階層目は「安全欲求」(安全な暮らし)、第三階層目は「社会的欲求(帰属欲求)」(集団や仲間)となる。

 これらの低次の欲求が満たされると、人は次第に高次の欲求を満たしたいと考え始める。現代日本で低次の欲求が満たされないことはほとんどないので、多くの人が高次の欲求を満たしたいという願望を持つようになる。

 第四階層目は他者から認められたい「承認欲求」、第五階層目が自分の能力を引き出し創造的なことをしたい「自己実現欲求」となっている。そして、この「承認欲求」は10代を駆り立てる力を持っている。

若者に快楽を与えるSNS

 SNSには、この「承認欲求」を満たす仕組みが整っている。「いいね」やRT(リツイート)、コメントやシェア、フォロワーの数などで簡単に承認されることができるのだ。そして、承認欲求は快楽とつながっている。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)が13~18歳の若者を対象に行なった実験によると、「いいね」がたくさんついている写真を見た若者はその写真を好きになった。そして、自分の写真に「いいね」がたくさんついているのを見た若者は、脳の快楽を感じる部位(側坐核)が活発になったという。この部位は、依存症とも関係することが知られている。つまり、「いいね」は快感であり、ギャンブルや煙草のように依存や中毒につながりやすいのだ。

 10代は特に仲間を大切に感じる年代だ。その時に、リアルの知り合いに承認されることは、さらに強い快楽につながるだろう。しかもその度合い、つまり「いいね」やリツイート、フォロワーなどの数は他人と比較できてしまう。他人より少なければ、もっと欲しいと思う若者は多い。

 そして、もっと承認されたいという欲求が、若者たちをSNSの過度な利用や過激な行動に駆り立てることがあるのだ。

インスタ映え」は手軽な盛り

 一般の中高生や大学生は、承認欲求を満たすためにSNS内でさまざまな行動に走る。ウケるような写真や動画、テキストを投稿するのは、その多くが「いいね」やリツイートをもらったり、フォロワーを増やしたいためだ。

 アルバイト先でシンクや皿洗い機に入ったり、冷蔵庫に入り込んで撮った写真をSNSに投稿した若者が多かったのは、友だちにウケると考えたからだ。彼らは、それによって炎上するなど考えもしなかったのだ。

 肖像権侵害の芸能人写真を投稿したり、パクツイ(パクリツイート。他人のツイートを自分のものとして投稿すること)をしたりすることも、それによってリツイートが増えたり、フォロワーが増えるのを期待してのことだ。このように、若者のSNSにおける問題行動の原因は承認欲求にあることが多い。

 最近はインスタ映え、つまりInstagramでウケるために現実を偽った写真を投稿するケースも多い。たとえば自分ひとりなのにデートを装うために2人分の飲み物を注文して写真を撮ったり、他人から借りたブランド物を自分のモノのように装って写真を撮ったりなど、現実を偽ってより良いように「盛る」のが当たり前となってきているのだ。

承認欲求が駆り立てる若者の過激な行動

 SNSでは、時間や手間をかけたらかけた分だけ反応が得られる。それゆえ、若者たちはSNSで次第に過激な行動をエスカレートさせてしまう。

 たとえば、10代の女子中高生や女子大学生ならばことは簡単だ。「JC(女子中学生)」「JK(女子高生)」「JD(女子大学生)」と年齢を前面に出したり、制服などのアイコンを散らつかせればいい。10代女子がSNSに投稿する写真や動画で顔を出していたり、制服姿の写真が多いのはそのためだ。行動が過激化すると、フォロワーや視聴者などにそそのかされて肌の露出を増やしてしまう子も出てくる。

 10代女子は若い女性というだけで注目されるが、男子はそうはいかない。そこで、過激な行動で目立とうとし始める。たとえば、Twitterなどにおける犯行予告だ。「○月○日に○駅を爆破します」「小学校で子どもを襲います」といったものを安易に投稿してしまう。書類送検などをされた容疑者の少年たちには、「フォロワーを増やしたかった」「有名になりたかった」と答えている割合が少なくない。

 また、不正アクセス禁止法違反をするのも男子のほうが目立つ。不正アクセスしてサイトを改竄・攻撃などをしたり、ウイルスなどを配布する理由は、やはり「自分の威力を示したかった」という理由が多いのだ。

リアルな人生で承認を求めよう

 SNS内で承認欲求を一時満たしたとしても、すぐにもっと欲しくなるだろう。上には上がいるし、満足し続けることは難しい。現実を偽って「いいね」をもらっても、承認されたのは自分自身ではない。

 SNS内でその場限りの承認をもらっても、人生が豊かになることはない。目的を持ってツールとして使いこなすならいいが、そうでないならSNSは何ももたらすことはないだろう。

 現実世界では、努力が必ずしも報われたり、承認欲求が満たされるとは限らない。しかし、現実世界でがんばる以外に真に満足する道はない。10代は将来を模索すべき大切なときだ。現実生活、学業や仕事、プライベートなどで努力して、願うような承認を得られるようがんばってほしい。
(文=高橋暁子/ITジャーナリスト)

高橋暁子/ITジャーナリスト・成蹊大学客員教授

高橋暁子/ITジャーナリスト・成蹊大学客員教授

書籍、雑誌、Webメディアなどの記 事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。 SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などが専門。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎) など著作多数。NHK『あさイチ』『クローズアップ現代+』などメディア出演多数。令和 三年度教育出版中学国語教科書にコラム掲載中。


高橋暁子公式サイト

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