権利取得だけでなく権利化後の活用についてもサポートし、また産業財産権以外の知的財産権(著作権など)についてのアドバイスも行うことがあり、ひとつの案件に関わる期間は長いときで3カ月以上を要することもある。しかも、同時に数十もの仕事をひとりでこなさなければならないという。
それだけ多岐にわたる弁理士の業務をそう簡単にAIが代替できるはずがない、というのが弁理士側の主張だ。
AIの意外な“盲点”とは?
もう少し、弁理士の仕事内容を詳しく見ていこう。今回、梶氏が特に強調していたのは、弁理士業務における「コミュニケーションの領域」だ。
「新たな発明や考案の権利を取得するには『どのような権利を取るべきか』という“概念”を明確にする必要があります。ところが、発明者にはその概念が明確になっていない方が少なくない。その場合、弁理士が発明者にしっかりとインタビューを行い『どのような権利を取りたいのか』という依頼人の“想い”を汲み取らなければなりません」(同)
発明者へのヒアリングをはじめとするコミュニケーションの領域を、本当にAIが代替できるのか。弁理士側は、その点を疑問視しているわけだ。
また、ヒアリングでは依頼者との会話の中から本人も言語化できていない思想を汲み取り、何度も打ち合わせを重ねて出願書類を作成するといった高い“対人スキル”も要求される。依頼者が的外れな思い込みをしていることもあるため、間違いを指摘してアドバイスをすることも求められるという。
相手の意図を汲んで一歩先を見据えたアドバイスをするには「人間の直感や創造力」(同)が必要だ。これをAIが代替できるかどうかは、iPhoneの音声アシスタント「Siri」や「Google Home」「Amazon Echo」といったAIスピーカーを使ってみたことのある人ならわかるだろう。
さらに、知的財産の分野へのAI導入にはもうひとつ、根本的な問題が存在する。それは“AI活用のキモ”とされる「教師データ」の不足だ。
「AIには自ら学習して効率化し、正解を導き出す『ディープラーニング』という技術が使われています。しかし、知的財産の分野には圧倒的に『教師データ』の数が少ないという問題がある。たとえば、特許侵害訴訟の場合で年間100件強、意匠や商標では年間数十件程度と事例が少ない上に“和解”で終わることもあり、結果が曖昧になりがちです。そのため、事例を学ばせてもAIが賢くならない可能性が高いのです」(同)