昨年、人間は2つの知的ゲームでAIに完膚なきまでに叩きのめされた。ひとつはグーグル系の企業が開発した囲碁プログラムの「アルファ碁」。インターネット上で次々とプロ棋士を撃破し、5月には世界最強と称される中国のプロ棋士にも3番勝負で3連勝し、「人間と対局するのはこれを最後にする」と勝利宣言を行った。
もうひとつは、プログラマーの山本一成氏が開発した将棋プログラムの「ポナンザ」。昨年11月に現役最高峰の名人との3番勝負に連勝で完勝し、コンピュータと将棋のプロが戦う「電王戦」もAIの全面勝利に終わった。
このように知的ゲームでAIが圧倒的な強さを発揮するのは、対局を重ねれば重ねるほど、AIが打ち手の数を数千万通りにも増やすことができるからだ。しかし、知的財産の分野では、こうした教師データがあまりにも少なすぎるのである。
「もちろん、弁理士の業務がAIに代替されることが『ない』とは言い切れません。しかし、代替されるまでにかなり時間がかかるのは確かでしょう」(同)
AIをうまく使いこなせる人が生き残る時代に
ただし、AIはあくまで効率化のために人間がつくり出したものであり、人間の敵ではない。要は、AIと争うのではなく、お互いの得意分野を生かして協力し合えばいいのだ。
「たとえば、弁理士業務のひとつである『調査』の一部は、AIによって効率化できる可能性があります。依頼者が考えた技術と似ているものを、現存の特許技術のなかからAIが拾い上げる。そのデータを基に、弁理士は出願をして権利になる見込みがどれくらいあるのか、権利侵害になっていないかを判断して発明者にアドバイスする。そうすれば、業務全体の効率化が図れます」(同)
また、AIには定型的な書類作成や統計的な分析などの業務を任せ、最終確認や最終判断を弁理士が担うという方法もある。こうして得意分野で協力し合えば、AIを補佐役とする新たなビジネスモデルが生まれる可能性もあるだろう。
そして、AI導入で業務が効率化すれば、弁理士はそれによって得た時間を使い、新たなサービスの開発やより質の高い仕事をこなすことができるわけだ。
「その点については当然、検討していく必要があります。いずれにせよ、AIの進歩に対して油断をしているわけではありませんが、現時点では『脅威』とも考えていません。これからは、『AIをうまく使って補完することで質の高いサービスを提供できる人が生き残る』という時代が来るのかもしれません」(同)
「人間の仕事が奪われる」という文脈で語られがちな「AI脅威説」。しかし、少し視点を変えれば、これは新たなビジネスが生まれるチャンスでもあるのだ。
(文=真島加代/清談社)
●取材協力/「日本弁理士会」