政府はその動きを知っていたが、推奨しなかった。というのは、当時の住民基本台帳法は市区町村単位で住民情報を管理し、情報処理会社に業務委託する場合を除いて外部に預託することを禁じていたためだ。2002年、住基ネットの稼働に合わせて住民記録データの預託が条件付きで可能になったが、税務や不動産管理、介護福祉、農政などのデータは市区町村内での管理が続けられた。
11年3月11日に発生した東日本大震災では、太平洋に面した青森・岩手・宮城・福島の4県41市町村が大きな被害を被った。そのうち岩手県の大槌町、陸前高田市、宮城県の南三陸町、女川町、亘理町などは庁舎が津波に襲われ、コンピュータ・システムが破壊されただけでなく、紙で管理されていた各種の台帳が失われた。いくつかの情報は委託先の情報処理会社や住基ネットの地域センターにバックアップされていたが、復元に数カ月を要したケースもあった。「行政サービスのBCPのために、国がデータ倉庫(DWH)を用意してくれないか」という声が少なからずあった。
「日本列島イントラネット化」
一方、「平成の市町村合併」で市町村の数が3234から1740に減少した。市町村の合併は同時に小中学校の廃校と統合を意味していて、文科省によると2002年から11年までに4709校、その後も含めて5000以上の小中学校が廃校となっている。そのなかには、地盤が強固で水力発電所が近くにあり、雪による冷却が可能、何かにつけて地域住民が出入りしているような廃校があるだろう。その校庭に大きな穴を掘って、データセンターを埋設するのだ。
全国のDWHを結ぶイントラネットを構築すれば、どこかのセンターにトラブルが発生したり外部からアタックを受けても、システム全体が停まることはない。インターネットの原型となったアメリカのARPANET(アルパネット)が、1962年のキューバ危機を契機に第3次世界大戦を想定していた際と同じ仕組みだ。行政と国民の情報を守るリダンダンシー(余裕のある、冗長な)ネットワークができあがる。
今後も安倍政権が続くかどうかはともかく、公文書管理法の見直しとセットで、情報公開法の見直しと「日本列島イントラネット化」を検討すべきである。
(文=佃均/フリーライター)