コロナ禍によってリモートワークが浸透し、「Slack」や「Microsoft Teams」といったビジネスチャット・ツールの普及が進んだが、2月にあるTwitterユーザーが「組織崩壊している会社ほどSlackのDM(ダイレクトメッセージ)使用率が高い」という趣旨の投稿をし、以下のように共感を集めている。
<あーこれはあるかも。オープンで言えないことが多いってのは、うん。色々ありそう
<だめな会社ほどオープンな場で議論せずにDMとかクローズな所で話したがるよね>
<社内で無用にDMを使いまくるのは良くない。コソコソ話とかでなく業務の話であっても。よほど秘匿しないといけない話でなければオープンチャンネルでやりとりすべき>
個人対個人のDMは閉鎖的な空間になるため、社員同士で気軽に雑談などもしやすいというメリットがある半面、悪口や愚痴が横行することになったり、共有すべき情報がDMでやりとりされてしまって重大なミスを招くというデメリットも考えられる。そこで今回は株式会社アバンギャルド代表取締役でIT評論家の戸田覚氏に話を聞いた。
確かにDM使用率が高い組織は崩壊の前兆といえるが
「確かにSlackやTeamsなどでDMの使用率が高い組織は崩壊しかけているか、崩壊の前兆といえるかもしれません。ただ誤解しないでいただきたいのは、DMが頻繁に利用されたせいで組織崩壊してしまうということではなく、そもそも人間関係などが悪く崩壊しかけている組織でDM使用率が高くなる傾向があり、DMによっていっそう混乱を招いてしまうというのが実情でしょう。
そうした組織では、当人のいないところで陰口を言い合ったり、仲が悪い者同士だと自分の都合、主張だけ押し付けてお互いにイライラしたりすることが考えられます。そういった状況がDMの使用率によって可視化されたということではないでしょうか。DMで組織の雰囲気を悪くするような人々は、おそらく基本的なマナーが備わっていない自己中心的で非常識な人物です。『DM使用率が高い』と愚痴を言っている人々は、DMという表面的な部分にだけ着目するのではなく、まずは自社内の雰囲気がなぜ悪いのかという原因を考えたり、もしくは自分自身の行いに非はないか改めて考えたりするべきなのかもしれません」(戸田氏)
リモートワークの導入でもともとの社内環境の悪さが露呈し、より荒んだ人間関係になっていく可能性も考えられる。DM自体は悪ではないが、それを使う社員側やチーム側に問題があると、一気に組織崩壊を加速させる可能性はあるだろう。
そのほかにも全体の会議で決定した方針、戦略に対して不満を持つ社員同士で愚痴を言い合ったり、上司に異を直接唱えたりなどDMを通して頻繁に連絡し合うことがあるかもしれない。もちろんDMの存在がこうした秘匿なやり取りを助長する側面はあるだろうが、やはり風通しの悪い企業であればあるほどDM使用率が上がるのかもしれない。また重要な情報について全体で共有せず、DMでやり取りしてしまうとトラブルに発展しやすいが、そういった問題はシンプルにリテラシーの欠如が原因だという。
「オフィスにせよ、リモートワークにせよ、重要な情報を共有する場合、全体への連絡は絶対に遵守すべきことです。特にリモートワークは出社するという労力から解放されている半面、ツールの使い方を熟知して使いこなし、連絡をこまめに、かつ正確に行わないと上手く業務が回らないシステムとなっています。このリモートワークならではの事情を踏まえていないと確認漏れは高確率で発生します。トラブル防止のためには、ビジネスチャットの使い方を学び、全体へ正確に共有するクセをつけないといけません」(同)
実は頻繁なDM使用が組織崩壊を招くわけではない
頻繁に飛び交うDMに嫌気が差し、「Slackの管理者権限でDMを停止してほしい」という要望が挙がってくるケースもあるという。
「DMを停止するという対策に、さほど意味はないと思います。DMが停止されたならば、次は電話でやり取りするといったことになるでしょうし、Slackには音声チャット機能もあるので、けっきょくストレスが増えたままになるだけでしょう。誤解がないよう申し上げますが、SlackやTeamsなどのビジネスチャットは、正しく使いこなすことができれば、業務の効率化を図ることができる素晴らしいツールです。しかし、利用者側が十分なリテラシーを持たずに使ってしまうと、一気にストレスが溜まるツールへと化してしまいます。
Slackなどが悪いわけでもDMの高頻度が悪いわけでもなく、もともと組織自体が抱える人材の問題や人間関係の問題を根本的に解決しないといけないわけです。ですから少しでも快適に使いたいのであれば、風通しの悪い企業風土を改善したり、常識のない社員の行動をいさめたりするしか、過剰にDMが行き交うストレスを軽減する術はないでしょう」(同)
問題の根治を目指すのであれば、会社は社内環境の改善に努め、社員一人ひとりがオープンな空間で話し合える場を設けることが肝要になるだろう。
(取材・文=A4studio、協力=戸田覚氏/株式会社アバンギャルド代表取締役)