日本企業が生成AIで出遅れる本当の理由…突破口は“仕組み化”と“遊び心”

●この記事のポイント
・日本企業は生成AI活用で米中に遅れ、投資不足や規制・リテラシーの低さが障壁となっている。
・成功企業は現場発の活用法を仕組み化し全社展開。小さな成功体験の積み重ねが鍵となる。
・生成AIは競争優位でなく生存条件。経営層が体験し、バリューチェーンの根幹に導入することが重要。
生成AIの活用が世界的に広がるなか、日本企業は米中に比べて後れを取っていると言われる。なぜこの差は生まれるのか。そして、日本企業が生成AIを真に業績に結びつけるためには何が必要なのか。
株式会社Exa Enterprise AIのexaBase生成AI事業開発部 部長・駒谷徹氏に、日本の現状と成功企業の共通点を聞いた。
●目次
- 日本と海外の差は「利用率」以上に「成果」の格差
- リテラシーの低さは「許されてしまう環境」が原因
- 成功する企業の共通点――ファミリーマートの事例に学ぶ
- 生成AIは「優位性」ではなく「前提条件」に
- 人間の役割は「遊びと熱狂」に
日本と海外の差は「利用率」以上に「成果」の格差
駒谷氏は「利用率そのものは上がってきているが、生産性の向上効果は米中に比べて段違いに小さいといわれている」と指摘する。
背景には日本企業特有の事情がある。ITやAIへの投資が乏しく、AI導入を推進する専門部署が設けられていないケースも多い。IT部門が兼務的にAI導入を担う現状では、大規模な投資や業績直結のプロジェクトに踏み込めない。
さらに、金融業界をはじめとする規制産業では「最新のツールが使えない」制約が強く、結果的に「レガシー化したシステム」を抱えることになる。米中がITを国の中核産業と位置づけ、経営の主導権をIT人材が握るのに対し、日本では「IT部門は花形ではない」状況が続いていることも構造的な違いだ。
リテラシーの低さは「許されてしまう環境」が原因
日本企業のAIリテラシーが上がらない理由について、駒谷氏は「そもそもDXやAIへの投資をしなくても事業が継続できてしまう」点を挙げる。
米国では人材の流動性が高いため、仕組み化を怠ると企業が立ち行かなくなる。一方、日本は属人的な働き方が温存されていても事業継続に大きな支障が出にくい。そのため構造的に危機感の希薄さが、非効率的な文化の温床となっているのだ。
生成AI導入における障壁はこれだけではない。導入後に「業務の進め方を変えなければならない」ことへの抵抗が根強い。
「どうせ現場は使わないのでは」という懐疑や、実際に事務局側の労力が過大となり導入を挫折する例も多い。駒谷氏は「小さな成功体験を作り、それを全社展開する」ことの重要性を強調する。
成功する企業の共通点――ファミリーマートの事例に学ぶ
うまく活用している企業として駒谷氏はファミリーマートや東京ガスなどを挙げる。
特にファミリーマートでは、社員が自発的に生成AIの活用法を競うコンテストを実施。現場発の優れた活用法を全社に展開することで、社内浸透が一気に進んでいるという。
「AIの強みは“仕組み化”。ベテラン社員の知見をAIに落とし込み、誰でも同じように使える形にできる。日本型の“ボトムアップ展開”にAIは相性がいい」と駒谷氏は語る。
では、活用の第一歩をどう踏み出せばよいのか。駒谷氏は「トップダウンが最も効果的」としつつも、現場主導の取り組みも有効だと話す。
ある企業では、社長の思考プロセスをAIに学習させ、「社長の答えにどれだけ近いか」を当てるクイズを実施。半年後にはAIの利用率が10%から70%に跳ね上がったという。堅苦しくない「遊び心」が、社員の心理的ハードルを下げるのだ。
生成AIは「優位性」ではなく「前提条件」に
生成AIが競争優位を生むのか、それとも効率化にとどまるのか。駒谷氏の答えは明快だ。
「AIネイティブな企業が既存産業を塗り替えるのは時間の問題。優位性を生むかどうかではなく、導入しなければ“勝負にすらならない”」
今後は介護や小売の現場など、人手を前提にしていたビジネスモデルも特に大きな影響を受けると予測する。
単なる業務効率化にとどまらず、新規事業やビジネスモデル変革につなげるにはどうすればいいのか。駒谷氏は「バリューチェーンの根幹にAIを組み込む」ことを挙げる。
創薬やアパレル設計、営業戦略の立案など、企業の競争力を決める領域にAIを導入すれば、業績へのインパクトは桁違いになるという。
生成AIを企業に根付かせるうえで経営層が果たす役割は大きい。駒谷氏は「経営者自身がまず触ってみること」を勧める。
さらに米中の先進企業を訪問し、実際に自動運転やAIネイティブ企業の現場を目にすることも有効だという。「体験することで初めて危機感が生まれる」と駒谷氏は語る。
人間の役割は「遊びと熱狂」に
AI時代における人間の役割について問うと、駒谷氏は「飛行機とパイロットの関係」に例える。AIが自動で動く部分が増える一方で、人間は「取り返しのつかない領域」を担い続ける。
だが長期的には、人間は「遊びやスポーツ」といった領域で価値を発揮するようになるだろうと予測する。将棋ではAIが藤井聡太より強く、野球では大谷翔平より多くホームランを打てるロボットを作れるかもしれない。しかし人々が熱狂するのは「人間」である。そこにこそ人間の存在意義があるという。
最後に駒谷氏は、Exa Enterprise AIとしての使命をこう語った。
「日本企業が安心して生成AIを使える環境を整え、最終的には自社でAIエージェントを作り出せるようにする。そのための基盤を提供することが我々の役割です」
セキュリティ意識が高く、変化に慎重な日本企業だからこそ、「安全性と内製化」を両立できる仕組みが求められている。
生成AIはもはや「選択肢」ではなく「前提条件」。その認識を持ち、まずは小さな一歩から踏み出すことが、日本企業にとって不可欠だ。
(文=Business Journal編集部、協力=駒谷徹/株式会社Exa Enterprise AI exaBase生成AI事業開発部部長)











