取引先に急行しようと必死に手を挙げるも、タクシーがなかなか停まってくれない。ようやく捕まえたタクシーのドライバーは、道に不慣れでいら立ちが募る……ビジネスパーソンなら誰しもこんな経験をしたことがあるだろう。特に東京都内では、流しのタクシーを普段はよく見かけるのに、必要な時に限って捕まらないものだ。
その要因はタクシーと乗客の需給ミスマッチにある。
一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会によると、東京のタクシーの運行台数は4万9447台で、全国の約20%に相当する。しかしその一方、2013年の実車率は約43%と低く、つまり6割近くのタクシーが空車回送となっている。
●アプリ導入が進むタクシー業界
こうした需給のミスマッチをIT技術で解消しようと、近年普及してきたのがスマートフォン(スマホ)向けの配車アプリだ。これらの配車アプリを使用すれば、従来のように電話でオペレーターに居場所や目的地を説明する必要がない。配車センターがドライバーのスマホからGPS機能を通じて、リアルタイムで車両の位置情報を確認でき、乗客と最短距離にあるタクシーを素早く呼び出せるからだ。
早ければ数分、遅くとも10分前後で到着できる場合が大半だが、乗客のスマホに到着時間の目安が表示されるため、安心して待つことができる。また、支払いは事前に登録したクレジットカードから自動的に引き落とされ、面倒な現金のやりとりはいらない。こうした利便性から配車アプリの利用者は急速に拡大している。
先駆けは、都内最大手のタクシー会社である日本交通のグループ会社が開発した「全国タクシー配車」だ。日本交通では、11年12月から同アプリを導入し、全国47都道府県のタクシー会社117グループと提携。利用可能なタクシーの台数は2万1151台に到達した(14年6月下旬時点)。クラウド型のシステムのため、自社でシステムを構築する手間や費用が不要とあって、地方のタクシー会社も比較的導入しやすいようだ。
その他、東京ハイヤー・タクシー協会の「スマホdeタッくん」、都内随一の無線配車実績を誇る東京無線タクシーの「東京無線配車」など、後発組の配車アプリも相次いでいる。
●外資系企業、異業種企業も相次ぎ参入
配車アプリに商機を見いだしたのは、国内のタクシー会社ばかりではない。ここ数年は外資系企業の参入が増えている。大阪周辺のタクシー会社と提携する英国ヘイロー・ネットワークの「Hailo(ヘイロー)」(日本での運用開始は13年9月)、31カ国70都市でハイヤーの配車を展開する米国ウーバーの「Uber(ウーバー)」(同14年3月)などがその例だ。
米・ニューヨークや英・ロンドンでは、時間帯によっては流しのタクシーが捕まりにくかったり、接客マナーの悪いドライバーが少なくない。そうしたタクシー事情から、米国や英国では安心して乗車できる配車サービスの需要があり、自国で培ったノウハウを海外に広げようと、積極的にグローバル展開を進めている。