まず、父母のどちらが親権者になるかを裁判所が決める場合、どちらが子の利益になるかを考えることとされている。しかし、離婚前に夫婦が別居し、その場合に母が子どもの面倒を見ている場合には、父が親権を取得することは事実上不可能である。なぜなら、子どもを混乱させない、また特に子どもが乳幼児の場合は母親といることが適切であるという観点から、「現状維持の原則」と「母親優先の原則」が司法の基本的な考え方となっているからだ。
たとえ妻が一方的に子どもを連れて出て行って別居したとしても、その事情はほとんど考慮されない。「子どもを連れて行った者勝ち」ということになってしまい、明らかに不公平だが、これが日本の司法運用の実情だ。実際、女性に子どもの連れ去りを勧めるかのような弁護士もいるという。
そして、面会交流を妨害するやり方としては、「子どもが精神的に不安定である」「会うことを嫌がっている」と、子どもの意思を強調して拒絶するパターンが多い。しかし、父としては子どもと一緒に住んでいないため、子どもの実情を自分の目で確認することも難しい。こうした母側の一方的な言い分に納得ができないのは当然だ。「子どもが精神的に不安定になっているのは、元妻が自宅から連れ去って環境を変えたからだ」「会いたくない、と母親に言わされているだけではないか」などと主張しても、裁判所や調停委員は、そんな男性の意見には冷たいことが多い。
妻の言い分を鵜呑みにする日本の司法
離婚問題を多く扱う柳下明生弁護士は、面会交流の実態について次のように語る。
「残念ながら、妻の言い分を鵜呑みにしたかたちで調停を進められることが、まだまだ多い印象です。例えば、妻への配慮を強調して、『妻がもう少し落ち着くまではしばらく面会も我慢したほうがよい』『子どもが精神的に不安定になるので、写真や手紙などの間接的な交流から始めたほうがよい』と言われることもありました。具体的な面会の話になっても、『月に1回、ファミリーレストランで数時間』などと厳しい制限をつけられることも珍しくありません」(同)