日本では「いいね!」「OK」「お金」などを示すジェスチャーとして知られる、親指と人差し指で〇をつくるハンドサイン。実は外国人の前で使うとトラブルの火種になることがあるのを知っているだろうか。フランスでは「ゼロ」「役立たず」、ギリシャやトルコ、中東、アフリカ、南米では強い侮辱を示すサイン、ブラジルでは「私は危険な人物です」という意味になる。
今や外国人と一緒に働くということは珍しいことではなくなっており、また、インバウンドの隆盛によって訪日観光客向けのビジネスを展開しようとしている企業も少なくない。ただ、それは、「日本では当たり前」だと思ってやったことが、「相手の国では侮辱の意味にあたるとは知らなかった」では済まされない時代になったことを意味する。
「多文化理解」は現代における重要なキーワードの一つだ。
グローバル化が進む日本において、ビジネスという観点から見ても、企業は多文化理解を組織全体に浸透させる必要があるのは間違いない。
では、「多文化理解」をどのように進めるべきなのか?
多文化理解における「自分の文化の理解」の重要性
共栄大学国際経営学部教授の平林信隆氏は、著書『多文化理解と異文化コミュニケーション―多国籍学生チームと共に学んだ理論と実践―』(創成社刊)において、多文化理解を「多様性を受け入れ、思い込みを手放し、見えない文化を理解すること」と定義する。
ここで言われている「見えない文化」とは、私たちの記憶の中に蓄積された観念的文化のことを指す。日本人であれば「礼儀」「わび・さび」「空気を読む」といったものがあげられる。これらは実際に日本人と触れ合わないと分からない行動様式であり、目に見えて分かる「アニメ」や「寿司」といった表層文化とは異なる。
実はこの「見えない文化」は、日本人である私たちも正しく理解しているか危ういところがある。「当たり前」「思い込み」は自分では気づきにくいものだが、それが他者や自分を苦しめることになりかねないのだ。そのため、「多文化理解」は他者の見えない文化を理解するだけでなく、自分自身を客体化し、「自己概念(self-concept)」を観察することが求められる。
例えば、日本は自己主張をあまり必要としない社会だが、グローバル社会では一般的に自分の意見を主張しなければ意向が通らないと言われる。そこまで強い自己主張をしなくても良いと考えていると、異文化に接した際に反射的に心が閉じてしまう可能性もある。相手の文化を積極的に評価できるようになるためには、自分を正しく理解する必要があるのだ。
説得の方法にも各国で違いがある
異文化マネジメントにおいて「見えない文化」はあらゆるところに存在している。その例を本書から1つあげて紹介しよう。
他人へフィードバックをする際には、建設的に行うことが大切だと考えられるが、この「建設的」の定義には大きな隔たりがあるという。否定的なフィードバックを与える際には、「直接的」な表現(率直、単刀直入、正直に伝える)を好むか、「間接的」な表現(柔らかく、さりげなく、やんわりと)を好むかで国によって差があるのだ。
直接的…ロシア、イスラエル、オランダ、フランス、ドイツ、デンマークなど
間接的…日本、タイ、インドネシア、サウジアラビア、韓国、ガーナなど
確かに日本では率直に伝えるのではなく、言葉のニュアンスを駆使して言いたいことを伝えるという向きがある。しかし、その伝え方はロシアやイスラエルなどでは通じにくいため、注意が必要だ。
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平林氏のゼミは3年生の約半分が中国、内モンゴル、タイ、ベトナム、ネパールからの留学生であり、日本人学生も留学経験者が多く、「まさに多国籍チーム」だという。
本書では「多文化理解」と「異文化コミュニケーション」の基礎を理解し、実践するための演習を用意している。また、ゼミ生たちのリアルな体験がコラムとして掲載されており、異文化と接しての戸惑いや良かったこと、考えたことなど学生たちの素直な思いが読み取れる。
今後、ビジネスの現場はもちろん、個人としても外国人と関わる機会は増えるだろう。SNSやインターネットでも国境を越えてメッセージをやり取りする時代だ。その意味でも、多文化理解を学ぶことは欠かせないはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。