今回の中国の経済調整と類似性があるのは、70年代の2回にわたるオイルショック後の危機ではないかと考えている。この時の危機はオイルショックが引き金ではあったが、田中角栄の「日本列島改造論」を背景にした国内の開発ブームの終焉が真の原因であり、これをもって日本の高度成長は終息し、その後安定成長期に入っていった。
つまり、今回の中国の調整は、単に2ケタの伸び率を示してきた高度成長が収束しつつあるのであって、安定成長期に入ったことを示すものであり、中央政府の認識もそのようなものである。断じて、長期停滞の始まりでも中国経済崩壊でもない。
中国経済回復のためのフリーハンド
財政赤字が顕著で、政府負債GDP比率が240%もあり政治家の能力が低い日本政府を基準に見ると、中国政府の実力を見誤ることになるだろう。
まず、地方政府は財政赤字であり不良債務を背負っているが、中央政府は財政的には黒字であり、また国有企業の収益と資産は潜在的な歳入でもある。中国政府は、多様な財政・金融政策を打ちだす余力を持っている。
さらに中央政府の官僚や政治家たちの能力は極めて高い。一党独裁なので政策への集中力も高い。権力闘争にその能力を削がれず、本来の高い能力を発揮できれば巧みな政策で経済をコントロールしていくだろう。
依然として有望な中国自動車市場
経済の難局を打開できるとしたら、中国自動車市場は今後も成長を続けることは間違いないであろう。経済は比較的安定した成長率に移行するとしても、相変わらず成長を続けること、さらに依然として中国の自動車保有水準は低位であり、その潜在的な経済力からすれば、まだ拡大する余地は大きい。依然として有望市場である点は変化がないだろう。
では、中国は日本の10倍の人口・世帯数なので市場規模も10倍になると単純に断言できるのだろうか。日本やアメリカなどの先進国では、自動車購入可能な世帯はほぼ100%か、これに近い水準とみてよいだろう。
では中国の購入可能世帯はどのくらいだろうか。実は正確な世帯別の所得統計がなく、分析は難しい。中国の顕在的自動車購入可能世帯の比率は、将来的にも全世帯の半分くらいではないだろうか。つまり、日本の購入可能世帯の5倍程度にすぎないとみることができよう。
そうなると、日本市場がほぼ500万台であるから、2500万台という中国の市場規模予測は極めて妥当な規模である。さらに日本の過去のピークが777万台であったから、中国のピークも相当好条件が重なった場合で3900万台くらいが上限なのかもしれない。このあたりの議論はいずれ、稿を改めて行いたい。
(文=井上隆一郎/東京都市大学都市生活学部教授)