東京五輪では他の自治体で開催される競技もあるが、マラソンは「大会の華」で街並みを世界の人に見てもらう絶好のチャンスでもある。都は巨費を投じて遮熱舗装などを整備したが樫村教授の研究では、遮熱舗装は路面温度を下げても反射熱で上半身の高さの温度が逆に上がると判明した。「アスリートファースト」を強調する小池知事なら「準備したから」では説得力不足だ。
マラソンのスタート時刻は招致時は7時半としていたが、その後6時に繰り上げられた。振り返れば、MGCが9月15日に行われていたのが不思議だ。残暑とはいえ、8月初旬とは気温はまったく違う。MGCのスタート時の8時半の気温は24.8度。湿度は69%だった。だが、スポーツニッポンの「同じコースを同じ時間帯に走ってみた」という記事によると、スタート地点の新国立競技場は午前6時の気温が29.4度、湿度81%。約1時間半後のゴールの皇居付近は33.7度でMGCとは大きく違う。ちなみに、東京の今年8月2日の最低気温は27.1度、最高気温は35.1度。昨年に至っては最低が26.7度。最高が37.3度だ。
本当に暑さに強い選手を選ぶのなら、一年で最も暑いはずの五輪開催時期にやればいいはずだった。だが、そこで、もし無理した選手が死にでもしたら、それこそすべてが終わってしまう。五輪の代表選考となれば、選手たちはある意味、五輪や世界選手権以上に必死になるはずだから、危険度は増大する。組織委員会、JOC、さらに小池知事もそんなことくらいわかっていただろう。そのため、選考会を涼しくなった9月15日にしてごまかしたのだろうが、ドーハの世界選手権だけは計算違いだったようだ。
1984年8月に行われたロサンゼルス五輪の女子マラソンで、スイスのG・アンデルセン選手が炎天下、ふらふらでよろめきながら完走し称賛されたが、あの脱水症状はドクターストップをかけるべき危険状態だった。東京五輪でマラソンだけ秋にずらすことは、「開催期間は14日以内」という五輪憲章からも不可能だ。
東京五輪のマラソン開催地は、10月30日からIOCが東京で開く調整委員会で決まる。だが、開催季節が真夏でいいのか、都市開催か国開催かを含め、五輪を根本から問い直す時だ。
(文=粟野仁雄/ジャーナリスト)