小笠原泰「生き残るためには急速に変わらざるを得ない企業」
英国、EU離脱で国家解体へ…経済的利益なし、「偉大なる大英帝国」復活という妄想
文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授
これは、EU離脱によってイギリスという国家の完全な主権回復を手にした途端に、イギリスという主権国家が解体されるという矛盾を内包している。さらに北アイルランドもスコットランドに倣う可能性があり、EU離脱がイギリスの下方分散を加速化させるという皮肉である。望んだ「完全な主権の回復」を得た途端に、国家の主権の絶対力が減衰し、イギリスではなくイングランドになるという皮肉である。「歴史の針を巻き戻す」のではなく、イギリスという国家の歴史的解体という「歴史の針を先に進める」ことになるであろう。
イギリスのEU離脱支持派の勝利をみて、EU加盟国内で脱EUの機運が盛り上がっていると報じられているが、その一方で、スコットランドに留まらず、首都ロンドンにおいても、数万人のロンドン住民がイギリスからの離脱を求めて署名したと報じている。イギリスという国家の求心力の急速な低下である。これは、国家主導の再分配を前提とした経済成長によりミドルクラスが成長し、豊かになれば、国民のコンセンサスを確立できるという近代国家の民主主義の原則はもはや幻想であり、多数決の限界を示す。
小差で多数を占めたEU離脱派を、国民の総意といわざるを得ない一方で、主権をたてに国民のコンセンサスを得ることが極めて困難であるということを示した今回の国民投票は、まさに、国家主権の液状化というパンドラの箱を開けたといえるかもしれない。
次回は、英国のEU離脱をめぐる今後の展開を予想したい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)