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小笠原泰「生き残るためには急速に変わらざるを得ない企業」

英国、EU離脱で国家解体へ…経済的利益なし、「偉大なる大英帝国」復活という妄想

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

歴史の針は巻き戻せない

 1991年のソビエト連邦崩壊による冷戦の終焉後に進行し始めた、急速な技術進歩と融合した現在のグローバル化とは、これまでにないレベルでの時間と空間の「圧縮」であり、地球規模での社会・経済・政治・文化(行動規範)領域における結合と相互依存の持続的強化である。

 グローバル化が国際化と呼ばれない理由は、グローバル化は国家を必ずしも前提には置いていない世界のネットワーク化であり、グローバル化が急速に進みだして四半世紀がたつ今、国際協調が主権行使の前提となり、国家は主権を単独で自由に行使できない状況にある。権力の代名詞といえる国家主権ですら、その実効的支配力とそれを支える権威の両方が弱まってきている。

 グローバル化のパラダイムシフトは、脱中心、脱境界、脱堅牢であり、この3つはすべて主権国家に対してマイナスに働く。事実、個人や企業の国家に対する認識とその重要性は変わってきている。つまり、国家主権はその行使力と権威において超越的な存在ではもはやなく、集合的個人や集合的企業(市場)と共にグローバル化する社会を形成するひとつの権力プレーヤーでしかない。この意味で、国家も集合的存在となり、一国が優位性を強化していくことは難しい。

 国際政治学者のイアン・ブレマーは、これを「Gゼロの世界(主導国のない世界)」と呼んでいる。イギリスが大英帝国として圧倒的な経済力と軍事力で世界を支配していた19世紀とは、国家の意味合いと行使力など国家を取り巻く環境は大きく異なる。EU離脱派が主張する主権の回復(完全な主権の獲得)によって強力な主権国家に戻ることで、大英帝国の復活という「歴史の針の巻き戻し」を図ることは、時代の変化を理解できていない時代錯誤であり、ほぼ不可能といえよう。

スコットランド独立の現実化はイギリスの解体

 今回の離脱派勝利を受けて、EU残留支持派が6割を超えたスコットランドから、さっそく独立の是非を問う住民投票を行うという動きが出ている。14年の住民投票ではかろうじて残留派が過半数を超えたが、今回はおそらくイギリスからの離脱を決定してEUに加盟し、イギリスという国家が解体される可能性が高い。

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『なんとなく日本人』、共著に『日本型イノベーションのすすめ』『2050 老人大国の現実』など。
明治大学 小笠原 泰 OGASAWARA Yasushi

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