イギリス、ドイツの中国離れが加速する
前述したイギリスにおける中国の原発新設計画は、デーヴィッド・キャメロン前首相とジョージ・オズボーン前財務大臣の時代に進められたものだ。しかし、イギリスはEU(ヨーロッパ連合)離脱に伴ってこの親中政権が崩壊、新政権では路線転換がされようとしている。これには、世論の後押しもある。
その姿勢に対して、中国は「約束した7兆4000億円のインフラ投資を見直すぞ」と強い圧力をかけているが、「EU離脱に比べれば、その影響は微々たるもので、中国の脅しはきかないだろう」という見方が大半を占めている。
ほかのヨーロッパ諸国についても、こうした“中国離れ”が進むと見られる。例えばドイツだ。「親中派」といわれるアンゲラ・メルケル首相は難民政策をめぐって支持率が急降下しており、国民から強い拒否反応が出ている。
特に、非常に保守的な田舎町である南部のバイエルン州とバーデン=ヴュルテンベルク州は、隣接するオーストリアからの難民の入り口になっていたこともあって反発が強い。この2州は、同じドイツでもフランクフルトやベルリンとはまったく違うコミュニティである。
正式名称を「ドイツ連邦共和国」というように、ドイツは基本的に小国の集合体である。そのため、文化や土壌がまったく違う地域も存在する。例えば、かつて東西に分けられていたベルリンは、東ベルリンが東ドイツの首都であり、西ベルリンは西ドイツの飛び地という扱いであった。
そのため、ベルリンはカレーが非常においしいという特色がある。かつて、アジアの東側諸国から安価な労働力を移民として受け入れていたため、今でもベトナムカレーがおいしいのだ。
また、金融センターとして機能するフランクフルトは、ヨーロッパ中からさまざまな人が集まるグローバル都市だ。そのため、もともと「国籍」「人種」という概念が希薄で、移民に関しても比較的寛容な姿勢である。
それに対して、南部の2州はいわばドイツらしいドイツが残っている地域であり、だからこそ、メルケル首相の移民政策に対して強いアレルギーが起きてしまっているわけだ。それは対中政策についても同様で、政権が中国に擦り寄るような姿勢を良しとしない。
そもそも、なぜ中国とドイツの間に密接な関係が築かれていたのだろうか。それは、メルケル首相自身が東ドイツ出身であるため、メルケル政権が旧東側の体制を引きずっていたからだ。しかし、前述のように、かつて東西に分かれていたドイツという国は一筋縄ではいかない。我々が日本から見ているドイツのイメージと東ドイツが一体化した現在のドイツは、別々の国だと思ったほうがいいくらいだ。
そういった事情の中で、中国はドイツ、さらにイギリスという後ろ盾を失いつつあるため、ヨーロッパでの立場は弱くなる一方であり、世界的な包囲網は確実に中国を追い込んでいくことになる。
(文=渡邉哲也/経済評論家)
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