また、中国はインフラ輸出においても、品質が低いために各国から敬遠され始めているが、この流れにも拍車がかかることが予想される。すでに、アメリカにおいて高速鉄道建設が頓挫したり、オーストラリアの電力公社の中国企業への売却が中止されたりしている。また、イギリスのテリーザ・メイ首相が就任早々に中国企業の原発新設計画をストップさせたことも記憶に新しい。
一方、中国は金にものをいわせるかたちで「中国排除」の動きを押さえ込みにかかっている。中国経済には資金量が多すぎることによる過剰流動性の問題があるが、持て余しているお金を使って、世界中で買収合戦を繰り広げているわけだ。習主席が唱えている経済圏構想「一帯一路」などはその典型だが、これも各地でインフラ計画がストップしており、破綻しつつあるのが現状だ。
また、この計画は外貨準備が不足した時点で成立しなくなる。中国の外貨準備は3兆2100億ドルで世界一とされているが、「実際は、その3分の1程度ではないか」といわれているのが実情だ。
外貨準備とは、その国の政府(通貨当局)と中央銀行が持つ外貨で構成されるものであり、通貨当局が全額を自由に使える。ところが、中国の外貨準備には政府と中央銀行の保有分に加えて国有銀行が持つ外貨も含まれており、実際に使える資金の量が見えないのだ。
また、中国の外貨準備には約1.2兆ドルのアメリカ国債が含まれるが、それ以外の資産内容がわからず、市場で換金した場合にどの程度の価値になるのか不明である。そのため、中国の外貨準備は額面と実態の乖離が大きいとされているのだ。
人民元をいつでも紙くずにできるアメリカ
アメリカには、「国際緊急経済権限法(IEEPA法)」というものがある。これは、安全保障や経済などの面でアメリカに対して重大な脅威を与える対象に金融制裁を科すというものだ。これによって、対象の国や個人の資産没収のほか、為替取引や外国債取引が凍結される。
さらに、IEEPA法によって対象者の保有するアメリカ国債を無効にすることもできる。現在、アメリカ国債はすべて登録制になっており、財務省にデジタルデータがあるにすぎない。証券の現物がないため、一度消してしまえば再び流通する恐れがない。そのため、議会の承認なしに大統領令でアメリカ国債を無効にできるという、ある意味で一方的なシステムになっている。
もし、アメリカが中国に対して同法を発動した場合、中国が保有するアメリカ国債は無効となり、人民元および香港ドルは紙くず同然となる。これはアメリカ国債の信用を低下させるものでもあるため簡単に適用できないが、それが存在するということが無言の圧力になるわけだ。こうしたパワーバランスの中で、さまざまな動きが生まれているのである。
『欧州壊滅 世界急変:「英EU離脱」で始まる金融大破局の連鎖』 2016年6月24日、国民投票による英国のEU離脱決定で大揺れとなる世界経済。欧州解体の行方、今後の日本、中国、米国への影響と金融恐慌の可能性は。ブレクジット・ショックの世界を完全分析!