山田 ただ、今、大統領選を戦っているトランプ氏もヒラリー氏も、それぞれTPPには反対しているでしょう? 僕は、アメリカは批准しないのではないかと見ています。TPP協定では、今年2月4日に署名式が行われましたが、この署名式から2年以内、つまり2018年2月3日までに参加12カ国のうち、6カ国、GDP85%以上の国の批准ができなければ発効できないことになっているんです。
三宅 ということは、日本とアメリカが入っていなければダメなんですね。
山田 そうです。日本だけが入っていても、アメリカが批准できなければダメなんです。日本では、自民党が、アメリカ大統領選が始まる前に強行採決すると言って野党の反発を買いましたが(編注:TPP特別委の自民・福井照理事が発言。その後、発言の責任をとって辞任した)、今回判明した誤訳をはじめ、問題点がどんどん出てきています。野党の中には、「最初の10日間に暴れるだけ暴れれば、審議時間切れになりますよ」と話している人もいます。
三宅 時間切れですか。
山田 前国会でも、与党はTPP承認案と国内対策の関連法案を提出しましたが、交渉過程について、中身を塗りつぶした黒塗り資料しか示せず、結局、継続審議になりました。今国会でも、野党が10日間頑張れば、実質審議ができなくなる可能性が高いんですね。それに、ここへきて、国民にもTPPに関する問題点が徐々に浸透してきていますから、安保法案の時のように、国会の外で反対運動が盛り上がれば、廃案にできます。世論が変われば、国会も変わるでしょう。
三宅 ただ、そこまで国民が動くか、ハードルは高いですよね。戦争法案の場合は、分かりやすいじゃないですか。「戦争はイヤだ」って。
山田 たしかに、TPP協定に関しては、単に農業だけの問題だと誤解している人が多すぎます。私は、「これは農業の問題じゃないんだ、国の形が変わる問題なんだ」と訴えてきました。「日本の独立が失われる問題なんだ」と。実際、これまでの通商条約とはまったく違う――条文を全部書き換えないといけないんですよ。
三宅 日本の法律のほうを、条約に合わせて変えなきゃいけない、と?
山田 そうです。韓国は、 アメリカとFTA(米韓自由貿易協定)を結びましたが、もう条文を200本くらい書き換えていて、地産地消の学校給食もできなくなっています。
三宅 地産地消の学校給食を? なぜですか?
山田 「韓国版TPP」とも言われているFTAに沿えば、地産地消の学校給食は協定違反なんです。というのも、FTAにもTPPにも、「ISD条項」と呼ばれる紛争解決制度が組み込まれていて、もし各自治体が、地産地消の学校給食を続けて、アメリカの企業が学校給食市場を獲得できない場合、このISD条項を使って韓国政府に損害賠償を求める可能性が出てくるんです。協定では、平等な入札が約束されていますから、それに違反している、と。ですから、FTA批准後の韓国の地方自治体では、「学校給食においては地元食材を優先的に使う」といった条例が次々と改正されているんです。実際、米韓FTA におけるアメリカの狙いは、韓国の学校給食だったのでしょう。
■遺伝子組み換え食品のターゲットは日本市場だ
山田 現在の日本では、遺伝子組み換え食品は原則的に輸入禁止となっていますが、TPPが批准されれば、アメリカは日本に遺伝子組み換え食品の輸入を求めてくると言われています。ただでさえ、「食の安全」については不安が多いのに、今回のTPP協定が恐ろしいのは、「各国の遺伝子組み換え食品の安全性の評価に関しては、利害関係人としての意見を聞き、それを考慮しなければならない」(第8章7条)と書かれていることです。
三宅 「利害関係人」というのは、例えば、モンサント社などの巨大バイオ企業のことですね。
山田 そうです。農薬の安全基準に関してはアメリカが一番ゆるいんですが、TPPでは、そこを基準にしてしまおうというんですね。そもそも、このTPPを推進しているのは、多国籍企業なんです。米カーギルやファイザー、モンサント……。そういう企業が農薬を作って、その売り込み先は日本市場と言われています。