2009年、『おっぱいバレー』(ワーナー・ブラザース映画、東映)という映画が公開されて話題となった。やる気のない中学校の男子バレーボール部員たちが、綾瀬はるか演じる新任教師の「おっぱいを見たい」ためだけに奮起するという内容だが、この例を出すまでもなく、おっぱいには男心を引き付ける強烈な引力があるのは間違いない。
一方、インターネット上で「おっぱいラーメン」と呼ばれる店がひそかに話題になっており、同店のラーメンが「名物」だという。その存在を知ったとき、「いやいや、おっぱいとラーメンを一緒にしなくても……」と思ったが、心のどこかに引っかかる上、ただの店でないことは想像がつく。いったいどんな店なのか、実際に行ってみた。
入場料300円で駄菓子が食べ放題に
最寄り駅である学芸大学駅の東口から2~3分歩くと、店の看板らしきものを発見した。「ラーメンBAR」と書かれたその文字は恐ろしく雑で、雨にさらされたせいか、塗料が滴り落ちている。
事前に店に連絡したときは「19時過ぎに来てください」と言われたのに、19時を5~6分過ぎても、店内には誰もいる様子がない。時間を置いて再度訪れると、一転して店内には明かりが灯っており、4人のお客さんらしき人物と店主である貴子さんが歓談していた。
筆者が店に入ると、気さくに歓迎してくれた貴子さん。威勢のいい関西弁で、とにかく元気がいい。美人で巨乳な上、胸元が大きく開いた服を着ているのも特徴だ。
4人のお客さんのうち2人の女性は古くからの常連で、バーカウンターの上を整理するなど開店の準備を手伝っていた。また、男性の2人組に話を聞くと、「先週、初めて来てファンになったので、今日は友達を連れてきました」とのこと。貴子さんによると、こんな感じで常連と新規のお客さんが半々くらいの割合で訪れるという。
その後も、手狭な店内にお客さんが入れ替わり立ち替わりやってくる。日曜の21時を回ろうというのに大盛況だ。入場料は一律300円。これで、カウンター上のさまざまな駄菓子が食べ放題になる。メニューは飲み物、食べ物ともに充実のラインナップで料金も手頃なため、ついつい食とアルコールが進む。
ここで、大事なことを思い出す。そう、ラーメンだ。「名物」とされるラーメンを食べないことには、わざわざ店に来た意味がない。楽しげにお客さんと話している貴子さんに「あのー、ラーメンお願いしてもいいですか?」と注文すると「えっ、ラーメン!?」と、明らかに乗り気ではない反応が返ってきた。
どうやら、ラーメンは手間だからあまりつくりたくないらしい。常連でも「貴子さんが不機嫌になるから、ラーメンは頼まないようにしている」というから、よっぽど嫌なのだろう。「いやいや、看板に『ラーメンBAR』って書いてあるのに……」というのは言わぬが花。
念のために補足すると、店の前には「ラーメンBARにつき、ラーメンのみのお客様はお断りさせて頂きます。」との貼り紙があり、最低1杯はお酒を頼まないとラーメンはNGのようだ。あとは、貴子さんの顔色をうかがって注文すればなんとか出てくるという。
元ホステスの店主がつくる絶品ラーメン
ラーメンを待っている間、貴子さんにいろいろと質問してみた。聞けば、昔はホステスとして夜の街で働いていたという。そこで紆余曲折があり(くわしくは店で直接聞くべし)、「ラーメンBAR」を開店するに至る。
豪放磊落な性格から慕ってくれる人も多い分、ときにはお客さんと激しいやり取りをすることもあるらしい。過去にどんなことでもめたのかまでは聞かなかったが、「いくら稼いでるとか、どんな企業に勤めてるとか、ここでは関係ない」「来た人全員が楽しめる場にしたい」というポリシーを持ち、女手一つで東京で何年も店を切り盛りしてきた貴子さんのこと。きっと、大事な何かを守るために戦ってきたのだろう。
さて、肝心のラーメンだが、注文してから1時間以上たって出てきた。ちなみに、麺の湯切りの際には、貴子さんが胸を大きく揺らしながら行うため、その様子が「おっぱいラーメン」という通称につながっているようだ。メニューの正式名称は「さっぱり・あっさり 塩しょうゆラーメン」。青ねぎととろろ昆布がどっさり入っていて、飲んだ後の締めにピッタリな一品だ。
まずはそのまま→濃い目の柚子胡椒→ライム→かつお油という4段階で味を楽しめる仕様になっているのもうれしい限り。ただメニューを注文しただけなのに半ば無理矢理つくってもらった感がすごかったため、出てきたときには妙な達成感があり、それがまたおいしさを引き立てる。実際、かなりおいしかった。
結局、3時間ほど飲み食いして気付いたのは、この店の魅力を支えているのは、まぎれもなく貴子さんの人柄ということだ。お客さんが次々と常連になるのは、彼女の天真爛漫なキャラクターに惹かれているからにほかならない。貴子さんの人柄が、強烈な磁場として作用しているのだ。
無論、「1人でしっぽり飲みたい」「ラーメンだけ食べたい」という人には向いていない店だ。しかし、貴子さんや同席したお客さんと和合しながら楽しくお酒が飲みたい、という人にはうってつけの場所かもしれない。
(文=小島浩平/ロックスター)